記録画像の中で、ローガン・ハイネ・ドーマーはヤマザキ医師に抱き留められながらも、なお介護士ダニエル・ジョンソンに殴りかかろうともがいた。まるで喧嘩を止められている子供みたいだ。
ジョンソンは何が彼を怒らせたのか理解出来ないでいる。
ーーどうしたんです? 私が何か気に障ることでも言いましたか、ローガン?
またもやハイネが腕を振り上げたので、ヤマザキは必死でジョンソンに怒鳴った。
ーー部屋の外へ逃げて下さい。僕に抑えきれるかどうか・・・
病人と思えない力でハイネが暴れるので、ヤマザキは手こずっている。介護人は患者が暴れるのに慣れているはずだが、ハイネが武道の達人であると言う情報を事前にもらっていたのだろう、後ずさり始めた。
その時、ドアが開いてグレゴリー・ペルラ・ドーマーが入って来た。彼はボスが暴れているのを見て、驚いて立ち止まった。するとジョンソンがくるりと体の向きを変え、素早くペルラ・ドーマーの横を駆け抜けて通路へ避難して行った。
ドアが閉まった途端に、ハイネが大人しくなった。全身の力を抜いたと思えた次の瞬間にぐったりとなり、ヤマザキが慌てて体を支えた。ペルラ・ドーマーは何が起きたのかわからぬまま駆け寄り、ヤマザキに手を貸した。
ーー局長?
ーー眠ったらしい・・・
ケンウッドはそこでまた再生を止めた。この先を見ても何もわからないと思えた。
パーシバルが腕組みした。
「いきなり子供還りしたみたいだな・・・」
「ジョンソン氏はミスを犯したとも思えないが・・・」
ヤマザキが溜息をついた。
「ジョンソン氏は冷静に行動してくれたが、恐かったんだと思う。ハイネの目が常軌を逸していたと言って、リン長官に今日のうちに辞表を出して月行きのシャトルに乗ってしまった。」
「ペルラ・ドーマーは何と言ってる?」
「彼にも何もわからない。外に居たからね。この後、2人でハイネをベッドに運んで暫く様子を見ながら、彼に先刻起きたことを話したのだが、彼は見当が付かないと言った。」
「それでハイネは今・・・」
ケンウッドは隣室のモニター室の方を見た。先刻入室した時は、ハイネはまだ寝ていたような気がした。
「激昂してエネルギーを大量に消耗したらしくて、まだ眠っている。ペルラ・ドーマーを帰宅させたかったので、観察棟の係官に見張ってもらっている。目覚めたら食事も摂らせたいしね。」
ヤマザキが疲れた表情をした。
「この事件がリン長官に悪用されると困るんだ。ハイネ自身もわかっているはずなのだがねぇ・・・」
ケンウッドは記録映像にヒントがあるはずだと思ったので、黙ってもう1度再生してみた。
ーー局長、こちらは火星第1コロニーの社会福祉事業団から派遣されてきた公認介護士ダニエル・ジョンソン氏です。
ーージョンソンさん、こちらが、アメリカ・ドーム遺伝子管理局長ローガン・ハイネ氏です。
ーー初めまして、ダニエル・ジョンソンです。アメリカ・ドームのリン長官から貴方の介護を仰せつかりました。お体が元通りに戻る迄、お世話をさせていただきます。
ーー失礼、まだ反応が鈍くて理解に時間がかかります。
「ここまでは、普通だ。」
とケンウッドは呟いた。パーシバルが頷いた。
「寧ろ、ハイネは考えて喋っている。相手の様子を探っているみたいだ。」
ーー仲良く致しましょう。家族の様に扱ってもらえると嬉しいです。私のことは、ダニーと呼んで下さい。私は貴方をローガンと呼びます・・・
ジョンソンは何が彼を怒らせたのか理解出来ないでいる。
ーーどうしたんです? 私が何か気に障ることでも言いましたか、ローガン?
またもやハイネが腕を振り上げたので、ヤマザキは必死でジョンソンに怒鳴った。
ーー部屋の外へ逃げて下さい。僕に抑えきれるかどうか・・・
病人と思えない力でハイネが暴れるので、ヤマザキは手こずっている。介護人は患者が暴れるのに慣れているはずだが、ハイネが武道の達人であると言う情報を事前にもらっていたのだろう、後ずさり始めた。
その時、ドアが開いてグレゴリー・ペルラ・ドーマーが入って来た。彼はボスが暴れているのを見て、驚いて立ち止まった。するとジョンソンがくるりと体の向きを変え、素早くペルラ・ドーマーの横を駆け抜けて通路へ避難して行った。
ドアが閉まった途端に、ハイネが大人しくなった。全身の力を抜いたと思えた次の瞬間にぐったりとなり、ヤマザキが慌てて体を支えた。ペルラ・ドーマーは何が起きたのかわからぬまま駆け寄り、ヤマザキに手を貸した。
ーー局長?
ーー眠ったらしい・・・
ケンウッドはそこでまた再生を止めた。この先を見ても何もわからないと思えた。
パーシバルが腕組みした。
「いきなり子供還りしたみたいだな・・・」
「ジョンソン氏はミスを犯したとも思えないが・・・」
ヤマザキが溜息をついた。
「ジョンソン氏は冷静に行動してくれたが、恐かったんだと思う。ハイネの目が常軌を逸していたと言って、リン長官に今日のうちに辞表を出して月行きのシャトルに乗ってしまった。」
「ペルラ・ドーマーは何と言ってる?」
「彼にも何もわからない。外に居たからね。この後、2人でハイネをベッドに運んで暫く様子を見ながら、彼に先刻起きたことを話したのだが、彼は見当が付かないと言った。」
「それでハイネは今・・・」
ケンウッドは隣室のモニター室の方を見た。先刻入室した時は、ハイネはまだ寝ていたような気がした。
「激昂してエネルギーを大量に消耗したらしくて、まだ眠っている。ペルラ・ドーマーを帰宅させたかったので、観察棟の係官に見張ってもらっている。目覚めたら食事も摂らせたいしね。」
ヤマザキが疲れた表情をした。
「この事件がリン長官に悪用されると困るんだ。ハイネ自身もわかっているはずなのだがねぇ・・・」
ケンウッドは記録映像にヒントがあるはずだと思ったので、黙ってもう1度再生してみた。
ーー局長、こちらは火星第1コロニーの社会福祉事業団から派遣されてきた公認介護士ダニエル・ジョンソン氏です。
ーージョンソンさん、こちらが、アメリカ・ドーム遺伝子管理局長ローガン・ハイネ氏です。
ーー初めまして、ダニエル・ジョンソンです。アメリカ・ドームのリン長官から貴方の介護を仰せつかりました。お体が元通りに戻る迄、お世話をさせていただきます。
ーー失礼、まだ反応が鈍くて理解に時間がかかります。
「ここまでは、普通だ。」
とケンウッドは呟いた。パーシバルが頷いた。
「寧ろ、ハイネは考えて喋っている。相手の様子を探っているみたいだ。」
ーー仲良く致しましょう。家族の様に扱ってもらえると嬉しいです。私のことは、ダニーと呼んで下さい。私は貴方をローガンと呼びます・・・
ケンウッドは少し巻き戻した。
ーー仲良く致しましょう。家族の様に扱ってもらえると嬉しいです。私のことは、ダニーと呼んで下さい。私は貴方をローガンと呼びます・・・
映像を一時停止させて、ケンウッドは考えた。また巻き戻し、次にスローで再生しながら、3次元ではなく2次元映像の方を見た。
ーー仲良く致しましょう。
ハイネは無表情だ。
ーー家族の様に
ハイネの表情が微かに変化したように思えた。
ーー扱ってもらえると嬉しいです。私のことはダニーと呼んで下さい。
ハイネの顔色が変わった。
ーー私は貴方をローガンと呼びます・・・
ハイネの形相が、目つきが完全に変化した。怒りで美しい顔を歪め、憎悪で目を吊り上げて・・・
「そうかっ!」
ケンウッドが投影テーブルを叩いたので、室内に居た残りの3人が驚いて彼を見た。