2017年7月22日土曜日

侵略者 7 - 3

「『お誕生日ドーマー』とは?」

 ケンウッドの疑問に、クーリッジとヤマザキが「さぁ?」と首をかしげた。ペルラ・ドーマーは困った様な顔で下を向いた。

「ペルラ・ドーマー?」
「私の口からはなんとも・・・」

 秘書は躊躇ってから、顔を上げた。

「その言葉の本当の意味は言えませんが、局長がパーシバル博士に話された内容はお伝え出来ます。」
「ハイネはヘンリーに何て言ったんだ?」
「局長が3歳の誕生日のプレゼントに弟をもらったと言う話です。」

 3人のコロニー人は暫し絶句した。

「弟をプレゼントにもらった?」
「はい。プレゼントに何が欲しいかと訊かれ、弟が欲しいと局長が・・・3歳の時ですよ・・・答えたら、数日後に養育係が赤ん坊を連れて来て、弟だと言ったそうです。」

 クーリッジ保安課長はローガン・ハイネ・ドーマーに同じ部屋出身の「部屋兄弟」がいたことを知らないので、ぽかんとした顔でケンウッドを見ていた。ヤマザキは、ハイネが火星から来た介護士を殴ろうとした騒動を思い出した。彼はケンウッドに確かめた。

「ケンさん、ハイネの弟は3歳下かね?」

 ケンウッドはダニエル・オライオン元ドーマーに面会した時の会話を思い出そうと努力した。

「うん・・・そうだ、オライオン元ドーマーはハイネより3歳年下だと言っていた。」
「ハイネは誕生日のプレゼントに赤ん坊のドーマーをもらったのか・・・」
「しかし、何故今頃そんな話を・・・?」

 突然、ペルラ・ドーマーがハッと何かに気が付いた。彼がモニター室から走り出たので、ケンウッドとヤマザキも追いかけた。
 通路を走ってはいけないと言う規則を無視して、遺伝子管理局の職員と執政官2人がドタドタと走り、ハイネの部屋に駆け込んだ。
 ペルラ・ドーマーは秘書机のコンピュータを立ち上げ、午前中の業務内容を表示した。
ケンウッドが彼の後ろから覗き込むと、それは全米各地から遺伝子管理局へ送信されて来る死亡公告だった。
 遺伝子管理局は新しく生まれてくる人を登録し、死んだ人を生存者リストから除外する。この作業が為されないことには、地球人は死者の遺産相続や権利停止などの作業をしてはならないことになっている。「死」を公認するのは、遺伝子管理局の仕事なのだ。
そして、局長は部下が認知したものをチェックする。彼に異存がなければ、初めて死亡が公に告知出来るのだ。
 ペルラ・ドーマーは今朝の死亡報告書をざっと一覧に出した。そして、彼とケンウッドは同時に目的の名前を発見した。

「あった!」
「ダニエル・オライオン、79歳、老衰・・・」

 ドームの外で暮らす地球人の平均寿命はこの時代67歳から69歳の間だった。79歳は長寿になる。元ドーマーだから、この年齢迄生きられた。だが、ドームの外だから、この年齢迄しか生きられなかった。
 ケンウッドは、面会した時のオライオンが、ハイネが送迎フロアで見送った時より老けて見えたことを思い出した。あの間の歳月は、僅か1年4ヶ月だった。あれから更に1年半近く経っていた。ダニエル・オライオン元ドーマーは、力尽きて天に召されたのだ。

 ハイネはこの報告を見つけてしまったのか・・・

 20代でオライオンが外に出た時、彼等はまたいつか会えると思って我慢した。そして60代にして念願の再会を果たし、1年に1回の出会いを楽しみに10年過ごして、3年前、オライオンの退職で互いにそれが永久の別れだと覚悟して、送迎フロアで別れたのだ。

 覚悟して別れても、やはり死の知らせはショックだったに違いない。

 ハイネを独りにしてやりたかった。しかし、今の彼の立場では、それは難しい。若いドーマー達に見られたらやはり騒ぎになるだろうし、リンの一味に見つかれば、今の隙だらけのハイネに連中を上手くやり過ごせるだろうか。
 ケンウッドは仲間に言った。

「私が探して連れ戻す。ドームの中に居るのは確かだから。」