2017年7月23日日曜日

侵略者 7 - 5

 西回廊は夕方になれば西日が射す。外の風景も夕日で黄金色に、そして赤く染まっていくのでデートスポットになるのだが、入り口が多くの施設の裏手にあるので、利用者が少なく、専ら物資運送用に使われている。
 ケンウッドが入った時も、殆ど人に出会わず、入ってから15分もしてからやっとドーマーの男カップル1組と出会った。窓から外の夕景を眺めている彼等に、ケンウッドは「やぁ」と声を掛けた。

「ちょっと尋ねるが、遺伝子管理局長を見かけなかったかね?」

 すると、カップルの背が高い方が答えた。

「ここから10分ばかり向こうに居た人がそうじゃないでしょうか。近くまで行かなかったので、確かなことは言えませんが・・・」

 低い方が呟いた。

「ちょっと恐かったので・・・光っていたし・・・」
「光ってた?」

 ケンウッドが思わず尋ねると、背が高い方が相方をたしなめた。

「光線の具合でそう見えただけだよ。白い服を着ていたから・・・」

 彼はハッと思い出してケンウッドに告げた。

「髪も真っ白でした。やっぱり局長だったんですね?」
「病気療養中なんですよね?」

 ケンウッドは確かな情報を得て、内心ホッとした。

「そうだよ、局長は療養中だ。まだ静養しないといけないのに時々出歩くので困っているんだ。」

と言った。カップルに礼を言って歩き出すと、後ろで彼等若者のこそこそ話し声が聞こえた。

「やっぱり生きていたんだ。」
「誰だよ、幽霊だって言ったのは?」
「だって、リンに殺されて化けて出たと思って・・・」

 なんでそんな話になるんだ? とケンウッドは可笑しく思った。そろそろハイネには現場に復帰してもらった方が良いかも知れない。後遺症も近頃は殆ど出ていない。ヤマザキ医師が完治宣言を出すのを躊躇っているだけだ。しかし、ハイネが復帰すれば、リン長官との確執が再開するのも必至だ。長官側が懐柔したドーマー達がどうなるのか、考えただけで気が重くなる。彼等は心から長官に服従している訳ではない。ドーマーの指導者が不在なので不安なのだ。だから権力者に身を寄せてしまった。
 大きくカーブした回廊を歩いて行くと、前方に壁に寄りかかって窓の外を眺めている白い人影が見えた。