その日の夕食が終わって、食後の運動までの1時間をローガン・ハイネ・ドーマーはベッドの上に座ってぼーっと過ごしていた。いつもその時間は休憩するか瞑想に耽るのだ。倒れる前は、夕食はもっと遅い時刻に取って、運動を先にしていた。食堂とジムの混む時間帯を避けたので、そんな時間になっていた。
彼は子供の時から有名人で人々の注目を集めていた。若い頃はそれを気にすることがなかった。彼にとっては当たり前のことだったからだ。しかし職務上の地位が上がって行くと、周囲が彼に遠慮し始めたことに気がついた。気安く話しかけられない人と思われているのだ。執政官達がそんな風に雰囲気を作っているのだと知ったのは、内務捜査班の現場捜査官になった時だ。執政官達は他のドーマー達と少し風貌の異なる彼をドーマーのリーダーにする為に、お膳立てをしていた。カリスマ性があるが、自分達の言うことを聞くリーダーを創っていたのだ。若さを保ち、他人より長命である彼等の可愛いドーマーをリーダーにしておけば、ドームの経営も安泰だと考えたのだった。
ハイネにすれば良い迷惑だった。彼は好きな捜査の仕事さえ出来れば良かったのだ。それなのに、なんだか神様の子供みたいな扱いを執政官がするものだから、ドーマー達も彼を何か特別な存在を見る目で見始めた。彼は次第に人混みを避けるようになり、食事も独りで、食堂が空いている時間に出かける習慣をつけた。ジムも早朝や食事時でドーマー達が食堂に集まる時間に独りで利用した。
観察棟に幽閉されて以来、食事時間はクローンの少年達と同じで、外の食堂が混む時間より早く食事が提供されることになった。ハイネにとっては「3時間早い」夕食が終わると、暇な時間が長くなる。
頭の中を空っぽにしてぼーっとするのも案外快感だと思っていると、ドアをノックする音が聞こえて現実に引き戻された。返事をする迄もなく、ドアが静かに開き、ヘンリー・パーシバルが入って来た。片手に小さな箱を持っていた。
「夕食は済んだのかい?」
「済みました。」
「デザートを持ってきたんだが?」
パーシバルは箱を持ち上げて見せた。ハイネが黙っていると、彼は説明を付加した。
「カマンベール味のジェラート・・・うっ!」
パーシバルはハイネが電撃的に素早く動けるほど体力を取り戻していたとは予想もしていなかった。アッと言う間にハイネはベッドから降りてパーシバルに駆け寄り、博士をギュッと抱きしめた。
「愛してます、ヘンリー!」
「君が愛しているのは、カマンベールの方だろ!」
数分後、2人は思い思いの場所に座ってジェラートを味わっていた。幸せそうにジェラートを味わっているドーマーを見ながら、パーシバルが呟いた。
「君を操りたければ、チーズ味の食い物を持ってくると良い訳だな。」
「そう簡単に操られるような私ではありませんよ。」
「だが、チーズを見た瞬間は油断するだろう、君は? 誘拐するには丁度良い餌だ。」
ハイネがスプーンを持つ手を止めた。
「そうか・・・食い物に何か中毒性の物を混ぜて与えれば・・・」
パーシバルがきょとんとして彼を見た。
「何の話だい?」
ハイネは何でもありませんと言った。そして自分のジェラートを平らげると、まだ何か残っていないかとパーシバルの隣に移動して箱の中を覗き込んだ。まるで子供の様な行動に、パーシバルは思わず笑ってしまった。
ハイネが顔を上げて彼を見た。
「明後日、北米南部班第4チームのポール・レイン・ドーマーは内勤の日でしたね?」
いきなり話題を変えられて、パーシバルは面食らった。
「そうだが?」
彼の頭の中には、全ての贔屓のドーマーの勤務予定表が入っている。
ハイネが彼に頼み事をした。
「明後日はレインをリンの部屋に行かせないで下さい。リン長官を何か用事で縛れると良いのですが。」
彼は子供の時から有名人で人々の注目を集めていた。若い頃はそれを気にすることがなかった。彼にとっては当たり前のことだったからだ。しかし職務上の地位が上がって行くと、周囲が彼に遠慮し始めたことに気がついた。気安く話しかけられない人と思われているのだ。執政官達がそんな風に雰囲気を作っているのだと知ったのは、内務捜査班の現場捜査官になった時だ。執政官達は他のドーマー達と少し風貌の異なる彼をドーマーのリーダーにする為に、お膳立てをしていた。カリスマ性があるが、自分達の言うことを聞くリーダーを創っていたのだ。若さを保ち、他人より長命である彼等の可愛いドーマーをリーダーにしておけば、ドームの経営も安泰だと考えたのだった。
ハイネにすれば良い迷惑だった。彼は好きな捜査の仕事さえ出来れば良かったのだ。それなのに、なんだか神様の子供みたいな扱いを執政官がするものだから、ドーマー達も彼を何か特別な存在を見る目で見始めた。彼は次第に人混みを避けるようになり、食事も独りで、食堂が空いている時間に出かける習慣をつけた。ジムも早朝や食事時でドーマー達が食堂に集まる時間に独りで利用した。
観察棟に幽閉されて以来、食事時間はクローンの少年達と同じで、外の食堂が混む時間より早く食事が提供されることになった。ハイネにとっては「3時間早い」夕食が終わると、暇な時間が長くなる。
頭の中を空っぽにしてぼーっとするのも案外快感だと思っていると、ドアをノックする音が聞こえて現実に引き戻された。返事をする迄もなく、ドアが静かに開き、ヘンリー・パーシバルが入って来た。片手に小さな箱を持っていた。
「夕食は済んだのかい?」
「済みました。」
「デザートを持ってきたんだが?」
パーシバルは箱を持ち上げて見せた。ハイネが黙っていると、彼は説明を付加した。
「カマンベール味のジェラート・・・うっ!」
パーシバルはハイネが電撃的に素早く動けるほど体力を取り戻していたとは予想もしていなかった。アッと言う間にハイネはベッドから降りてパーシバルに駆け寄り、博士をギュッと抱きしめた。
「愛してます、ヘンリー!」
「君が愛しているのは、カマンベールの方だろ!」
数分後、2人は思い思いの場所に座ってジェラートを味わっていた。幸せそうにジェラートを味わっているドーマーを見ながら、パーシバルが呟いた。
「君を操りたければ、チーズ味の食い物を持ってくると良い訳だな。」
「そう簡単に操られるような私ではありませんよ。」
「だが、チーズを見た瞬間は油断するだろう、君は? 誘拐するには丁度良い餌だ。」
ハイネがスプーンを持つ手を止めた。
「そうか・・・食い物に何か中毒性の物を混ぜて与えれば・・・」
パーシバルがきょとんとして彼を見た。
「何の話だい?」
ハイネは何でもありませんと言った。そして自分のジェラートを平らげると、まだ何か残っていないかとパーシバルの隣に移動して箱の中を覗き込んだ。まるで子供の様な行動に、パーシバルは思わず笑ってしまった。
ハイネが顔を上げて彼を見た。
「明後日、北米南部班第4チームのポール・レイン・ドーマーは内勤の日でしたね?」
いきなり話題を変えられて、パーシバルは面食らった。
「そうだが?」
彼の頭の中には、全ての贔屓のドーマーの勤務予定表が入っている。
ハイネが彼に頼み事をした。
「明後日はレインをリンの部屋に行かせないで下さい。リン長官を何か用事で縛れると良いのですが。」