「宜しく、ケンウッド博士。」
ロッシーニ・ドーマーが手を差し出した。素手だ。ケンウッドは規則に則って手袋をポケットから出してはめようとした。ロッシーニ・ドーマーが微笑んだ。
「その必要はありません、博士。局長が素手で触れることを許される数少ないコロニー人と言うのは、貴方のことでしょう?」
ケンウッドは照れくさく感じた。握手に素手で応じながら言った。
「私独りではないがね。こちらこそ宜しく。仕事の邪魔をして申し訳ない。」
「いえ、これも職務ですから・・・失礼します。」
ロッシーニ・ドーマーは局長からリストを受け取り、目を通した。
「このジャック・エイデン・ドーマーと言う男は、先月も『お勤め』に呼ばれていましたが?」
つまり、先月のリストも彼は見たのだ。ケンウッドは説明した。
「エイデンはアレルギー体質で、今までは症状が出なかったのだが、先々月から急に貝類を食べると皮膚が痒くなると訴え始めた。それで、名目上は『お勤め』だが、実際は問診と触診だけだ。医療区に行くように勧めたのだが、貝類を食べた時にしか症状が出ないので、本人は病気だと思っていない。私に症状軽減の方法を聞きたいだけなのだと、本人から連絡してきた。」
「つまり、また食べて痒くなったのですね?」
「食べるなと言っておいたのだがね。」
「アレルギーでしたら、遺伝子にその因子があるので、幼児期から養育係に貝類を食べるなと言われているはずです。何故今頃になって食べたのでしょう。」
「本人は、友達が食べているのを見ていたら、美味しそうだったので食べたと言っている。」
ロッシーニ・ドーマーはハイネ局長に顔を向けた。
「どう思われます? アレルギーとわかっていて、何故医療区に行かずに、ケンウッド博士の診察を受けたがるのでしょう? それも『お勤め』を利用して・・・」
ケンウッドもハイネを見た。ロッシーニは何を疑っているのだろう? 普通内務捜査班は執政官の不正を調べるのが仕事だが、彼はドーマーを疑っているのか?
ハイネがケンウッドに尋ねた。
「前回の検査の時に、手袋を着用されましたか?」
「勿論・・・しかし、湿疹の有無を調べるために、本人の承諾を得てから、素手で触った。ほんの数秒だったが・・・」
「それで、今回の検査も向こうから要請してきたのですね?」
「うん、さっきも言った通り、症状軽減の方法を教えて欲しいと言っていたが・・・」
「つまり、向こうは、検査担当の執政官を貴方に指定してきた訳だ。」
「・・・そう言うことになるね・・・」
ハイネとロッシーニが目を合わせた。内務捜査班同士の何か通じるものでもあるのか?
ロッシーニ・ドーマーがエヘンと咳払いしてから、ケンウッドに向き直った。
「ケンウッド博士、良ければ私もその検査に立ち会わせて頂けませんか?」
「君が?」
ケンウッドは戸惑ってハイネをもう1度見た。ハイネが頷いた。ロッシーニのやりたい様にやらせてやってくれ、と言う意味か。
ケンウッドはロッシーニを見た。
「わかった。日程が決まれば連絡する。ええっと、君の連絡先は・・・」
「ペルラ・ドーマーかセルシウス・ドーマーに言付けて下されば、いつでも都合をつけて行きます。」
ロッシーニは班チーフと言うことだが、日常は何処で仕事をしているのだろう?
ロッシーニがリストを局長に返した。ハイネは残りの2人のドーマーの名前を見て、頷き、承認の署名をしてケンウッドにリストを返した。 ケンウッドが日程を決めれば、局長から対象ドーマーにメールで出頭命令を出してくれる。
ケンウッドはリストをブリーフケースにしまった。実のところ、外が暑いので、この部屋で涼んでから帰るつもりだったのだが、内務捜査班のチーフが仕事をしているので、居づらい。世間話でもしようものなら、叱られそうだ。それで、ハイネに承認の礼を言って、部屋から出て行った。
ドアが閉まると、会議用テーブルに戻ったロッシーニ・ドーマーが局長に話しかけた。
「罠だと思われますか?」
「多分。」
「ケンウッド博士に手袋を脱がせて触診させ、後で素手で触れたと騒ぎ立てる。博士を何らかの処罰対象にして、貴方から遠ざける・・・」
「恐らく、そんな筋書きだろう。」
「リンに買収されているヤツが他にもいるでしょうね。」
「ドーマーは金では転ばない。何を餌にしているのか、私には見当がつかない。」
ロッシーニ・ドーマーが溜息をついた。
「早くあのダニをこのドームから追い出しましょう、局長。」
ロッシーニ・ドーマーが手を差し出した。素手だ。ケンウッドは規則に則って手袋をポケットから出してはめようとした。ロッシーニ・ドーマーが微笑んだ。
「その必要はありません、博士。局長が素手で触れることを許される数少ないコロニー人と言うのは、貴方のことでしょう?」
ケンウッドは照れくさく感じた。握手に素手で応じながら言った。
「私独りではないがね。こちらこそ宜しく。仕事の邪魔をして申し訳ない。」
「いえ、これも職務ですから・・・失礼します。」
ロッシーニ・ドーマーは局長からリストを受け取り、目を通した。
「このジャック・エイデン・ドーマーと言う男は、先月も『お勤め』に呼ばれていましたが?」
つまり、先月のリストも彼は見たのだ。ケンウッドは説明した。
「エイデンはアレルギー体質で、今までは症状が出なかったのだが、先々月から急に貝類を食べると皮膚が痒くなると訴え始めた。それで、名目上は『お勤め』だが、実際は問診と触診だけだ。医療区に行くように勧めたのだが、貝類を食べた時にしか症状が出ないので、本人は病気だと思っていない。私に症状軽減の方法を聞きたいだけなのだと、本人から連絡してきた。」
「つまり、また食べて痒くなったのですね?」
「食べるなと言っておいたのだがね。」
「アレルギーでしたら、遺伝子にその因子があるので、幼児期から養育係に貝類を食べるなと言われているはずです。何故今頃になって食べたのでしょう。」
「本人は、友達が食べているのを見ていたら、美味しそうだったので食べたと言っている。」
ロッシーニ・ドーマーはハイネ局長に顔を向けた。
「どう思われます? アレルギーとわかっていて、何故医療区に行かずに、ケンウッド博士の診察を受けたがるのでしょう? それも『お勤め』を利用して・・・」
ケンウッドもハイネを見た。ロッシーニは何を疑っているのだろう? 普通内務捜査班は執政官の不正を調べるのが仕事だが、彼はドーマーを疑っているのか?
ハイネがケンウッドに尋ねた。
「前回の検査の時に、手袋を着用されましたか?」
「勿論・・・しかし、湿疹の有無を調べるために、本人の承諾を得てから、素手で触った。ほんの数秒だったが・・・」
「それで、今回の検査も向こうから要請してきたのですね?」
「うん、さっきも言った通り、症状軽減の方法を教えて欲しいと言っていたが・・・」
「つまり、向こうは、検査担当の執政官を貴方に指定してきた訳だ。」
「・・・そう言うことになるね・・・」
ハイネとロッシーニが目を合わせた。内務捜査班同士の何か通じるものでもあるのか?
ロッシーニ・ドーマーがエヘンと咳払いしてから、ケンウッドに向き直った。
「ケンウッド博士、良ければ私もその検査に立ち会わせて頂けませんか?」
「君が?」
ケンウッドは戸惑ってハイネをもう1度見た。ハイネが頷いた。ロッシーニのやりたい様にやらせてやってくれ、と言う意味か。
ケンウッドはロッシーニを見た。
「わかった。日程が決まれば連絡する。ええっと、君の連絡先は・・・」
「ペルラ・ドーマーかセルシウス・ドーマーに言付けて下されば、いつでも都合をつけて行きます。」
ロッシーニは班チーフと言うことだが、日常は何処で仕事をしているのだろう?
ロッシーニがリストを局長に返した。ハイネは残りの2人のドーマーの名前を見て、頷き、承認の署名をしてケンウッドにリストを返した。 ケンウッドが日程を決めれば、局長から対象ドーマーにメールで出頭命令を出してくれる。
ケンウッドはリストをブリーフケースにしまった。実のところ、外が暑いので、この部屋で涼んでから帰るつもりだったのだが、内務捜査班のチーフが仕事をしているので、居づらい。世間話でもしようものなら、叱られそうだ。それで、ハイネに承認の礼を言って、部屋から出て行った。
ドアが閉まると、会議用テーブルに戻ったロッシーニ・ドーマーが局長に話しかけた。
「罠だと思われますか?」
「多分。」
「ケンウッド博士に手袋を脱がせて触診させ、後で素手で触れたと騒ぎ立てる。博士を何らかの処罰対象にして、貴方から遠ざける・・・」
「恐らく、そんな筋書きだろう。」
「リンに買収されているヤツが他にもいるでしょうね。」
「ドーマーは金では転ばない。何を餌にしているのか、私には見当がつかない。」
ロッシーニ・ドーマーが溜息をついた。
「早くあのダニをこのドームから追い出しましょう、局長。」