2018年3月10日土曜日

泥酔者 1 - 7

 レイモンド・ハリスがゲストハウスの係に誘導されて部屋から出て行くと、ケンウッドは遺伝子管理局本部にいると思われるハイネ局長の端末に電話を掛けた。ハイネは3回目の呼び出しで出た。

「ハイネです。」
「君の苦情の件について、話しておきたいことがある。手が空いたら私の部屋へ来て欲しい。」
「わかりました。1時間後に伺えると思います。」

 まだ仕事中だ。恐らく逃亡中のドーマー、ダリル・セイヤーズを探す為の住民登録リストと遺伝子リストの照合をしているのだろう。最近、この作業の副産物として、違法なクローン製造業者、所謂メーカーの摘発件数が増えた。リストは東海岸から中央部へ進んでおり、田舎ほど女性の数が少なく、メーカーの需要が増えるらしい。都会と違ってスペースがあるので、摘発してみるとかなり面積の広い工場の様な施設を持っているメーカーもいて、警察やドームを驚かせた。
 北米南部班は近頃気になる凄腕のメーカーを追いかけているのだが、なかなか尻尾を掴めないでいる。ほぼ完璧な健康状態のクローンを作るのだ。まるで女性から生まれた本物の人間の様なクローンだ。成人登録申請を出すのでクローンだと判明するクローンだ。当然ながら発注者はお金を持っている。クローンは実の息子として大切に養育され、成長している。実社会で活動する為に人間としての保証が必要なので成人登録するのだ。親にメーカーの名を尋ねたいが、「成人」と認められれば「人間」としての権利を持つので、製造元を尋ねることが難しくなる。プライバシーの侵害となるからだ。もっともクローンとして生まれた者には婚姻許可が降りない。子供が欲しければ養子をもらうしかない。これも養子縁組許可が出ればの話だが。兎に角、クローンとして生まれることは、決してその人生にプラスになる要因が多くないと言うことだ。
 遺伝子管理局北米南部班の新しい班チーフとなったポール・レイン・ドーマーは、そう言った成人登録したクローンの親の1人からメーカーの名前、恐らく通称なのだろうが、名前を聞き出すことに成功した。クローンの息子に養子縁組を許可してやった見返りだ。
 そのメーカーは「ラムゼイ博士」と名乗っていることが判明したのだ。その名はあるコロニー人遺伝子学者の名前を連想させた。ハイネ局長はレインにそのメーカーの正体を突き止めるよう指示した。局長が具体的な任務を与えることは滅多になかったので、局員達は驚いた。それにケンウッド長官も珍しくそのメーカーに関心を抱いている様に見えた。メーカー、ラムゼイ博士とは何者なのか。遺伝子管理局の若者達は類まれな才能を持つ謎のメーカー追跡に燃えているのだった。