2018年3月27日火曜日

泥酔者 4 - 1

 ニコラス・ケンウッドはヤマザキから話を聞かされた時、医療区長が冗談を言ったのだと思った。ハイネ遺伝子管理局長がアイダ出産管理区長に恋をしているなど、想像がつかなかった。2人はもう30年も一緒に働いてきた仲間だ。10年前迄は、キーラ・セドウィックも入れた3人で取り替え子やドーマーの選出をしてきた。地球の将来を担った重要な仕事をしてきた。恋愛や遊び心とは無縁の仕事だ。互いに深い信頼で結ばれていたが、愛情はあっただろうか? それも友人ではなく異性として?

「ハイネ本人も今迄気がつかなかったんじゃないかな。」

とヤマザキが言った。

「殆ど毎日顔を合わせて仕事をしてきたし、サヤカは自然にハイネの手や顔に手を触れる。ハイネは女性に触れられても拒まない。彼にとって彼女はそばに居るのが当たり前の人だったんだ。それが突然いなくなると彼女の方から言い出して、彼はショックを受けた。」
「友情と恋愛を勘違いしていないか?」

 ケンウッドはまだハイネが恋をして居ることが受け入れられない。

「女性執政官達は大なり小なりハイネに興味を持っている。サヤカの言動が彼に誤解を与えた可能性もあるし・・・」
「誤解なら、彼女の方から彼にきちんと説明するべきだろう。さもないと無用に地球人を誘惑したと訴えられる恐れもあるんだ。」

 こんな時、ヘンリー・パーシバルならハイネに何と忠告するだろう。アイダ博士を窮地に陥れることだけはするな、と言うだろうか? キーラ・セドウィックなら、サヤカに何と言うだろう。
 ケンウッドは溜め息をついた。

「私からハイネに真意を質してみるよ。今の所、彼が打ち明けたのは君だけだろう、ケン?」