ローガン・ハイネ・ドーマーはモヤモヤした気分でアパートの自室に居た。酒宴の日ではないが、室内にはヤマザキ・ケンタロウが居て、彼の向かいで1人でブランデーをグラスに注ぎ、そっと舐めるように味わっているところだった。もっとも彼は酒を飲みに来た訳ではない。ハイネのモヤモヤした気分の原因を彼は知っているのだった。
元気なく座って琥珀色の液体を眺めているだけの老ドーマーに、ヤマザキが優しく声をかけた。
「僕等コロニー人はいつかは宇宙に帰る。それがここの常識だ。早いか遅いか、だよ。彼女は十分頑張った。上手に重力とも付き合って、仕事も上手くこなしたし、後進も多く育てた。彼女だってもっとここで働きたいのさ。だけど、若い人に働く場を譲るのも大切だ。彼女1人で現場の指揮を執るのも重荷だろうし・・・」
「だからと言って・・・」
ハイネがまるで10代の少年のような口調で反論した。
「いきなり言い出すなんて、あんまりです。今までそんな考えを持っている素ぶりさえ見せなかったのに・・・」
「君に・・・君だけに内緒にしていた訳じゃない。彼女は僕等にも昨日初めて打ち明けたんだ。医療区も出産管理区も、激震を食らった気分だよ。」
ハイネは自分のグラスを手に取った。
「ガブリエルが退官すると言うのに、サヤカまで去ってしまうなんて・・・」
ヤマザキは彼の顔を見た。ちょっと驚いていた。ハイネは今まで現在の出産管理区長をアイダ博士としか呼ばなかった。それなのに、たった今、名前を呼んだ。
「ハイネ、君は彼女の家庭の事情を知らないだろう? 」
「30年前に配偶者を亡くして、子供を姉夫婦に預けて地球へ働きに来た・・・それだけ知っています。」
アイダ・サヤカ博士は、生活の為に地球へ働きに来た。子供は2人、当時下の子供が10歳になったので、宇宙を旅して来たのだ。子供達はアイダの姉夫婦が育て、彼女は養育費を仕送りし続けたのだ。細目に重力休暇を取っては子供に会いに帰り、必死で我が子の為に、地球人の未来の為に働き続けた。その子供達は成人して、結婚して子供が出来て・・・アイダ博士は「田舎」で孫達と暮らそうかな、と思い始めた。
遅咲きの結婚をした親友のキーラ・セドウィックが、子供が10歳になったので、そろそろ社会活動を再開させようかと考えるのと反対に、彼女は休憩しようと思い始めたのだ。
そして昨日の執政官会議で、ケンウッド長官に退官希望を提出して、議場内に衝撃を与えた。誰もが彼女はまだずっとドームに居ると思っていたから。
ヤマザキ・ケンタロウは、議場の末席に座っていたローガン・ハイネ局長の顔色が青ざめるのを目撃してしまった。
ケンウッドはアイダに思い留まるようにと言った。彼女は何も言わなかった。長官が退官希望届けを暫く保留すると言うと、彼女は「反対される理由はありません」とだけ言った。すると、ハイネが席を立って議場から退出してしまった。
「サヤカは、孫に彼女の子供と同じ寂しい思いをさせたくないんだ。彼女の子供達は働いている。1人はコロニー政府の官僚で多忙らしい。配偶者もいるのだが、コロニーでは夫婦で子供を育てるのが常識だ。どちらか片方だけで育てるのは社会常識から外れる。だが官僚ともなると時間の自由が効かなくてね・・・それでサヤカが代わりに子供の配偶者と一緒に孫の面倒を見ようと考えているんだ。」
「コロニー人の都合なんて知りませんよ。」
ハイネが子供の様に拗ねた。
「私は彼女がいなくなるのが嫌だ、それだけです。」
元気なく座って琥珀色の液体を眺めているだけの老ドーマーに、ヤマザキが優しく声をかけた。
「僕等コロニー人はいつかは宇宙に帰る。それがここの常識だ。早いか遅いか、だよ。彼女は十分頑張った。上手に重力とも付き合って、仕事も上手くこなしたし、後進も多く育てた。彼女だってもっとここで働きたいのさ。だけど、若い人に働く場を譲るのも大切だ。彼女1人で現場の指揮を執るのも重荷だろうし・・・」
「だからと言って・・・」
ハイネがまるで10代の少年のような口調で反論した。
「いきなり言い出すなんて、あんまりです。今までそんな考えを持っている素ぶりさえ見せなかったのに・・・」
「君に・・・君だけに内緒にしていた訳じゃない。彼女は僕等にも昨日初めて打ち明けたんだ。医療区も出産管理区も、激震を食らった気分だよ。」
ハイネは自分のグラスを手に取った。
「ガブリエルが退官すると言うのに、サヤカまで去ってしまうなんて・・・」
ヤマザキは彼の顔を見た。ちょっと驚いていた。ハイネは今まで現在の出産管理区長をアイダ博士としか呼ばなかった。それなのに、たった今、名前を呼んだ。
「ハイネ、君は彼女の家庭の事情を知らないだろう? 」
「30年前に配偶者を亡くして、子供を姉夫婦に預けて地球へ働きに来た・・・それだけ知っています。」
アイダ・サヤカ博士は、生活の為に地球へ働きに来た。子供は2人、当時下の子供が10歳になったので、宇宙を旅して来たのだ。子供達はアイダの姉夫婦が育て、彼女は養育費を仕送りし続けたのだ。細目に重力休暇を取っては子供に会いに帰り、必死で我が子の為に、地球人の未来の為に働き続けた。その子供達は成人して、結婚して子供が出来て・・・アイダ博士は「田舎」で孫達と暮らそうかな、と思い始めた。
遅咲きの結婚をした親友のキーラ・セドウィックが、子供が10歳になったので、そろそろ社会活動を再開させようかと考えるのと反対に、彼女は休憩しようと思い始めたのだ。
そして昨日の執政官会議で、ケンウッド長官に退官希望を提出して、議場内に衝撃を与えた。誰もが彼女はまだずっとドームに居ると思っていたから。
ヤマザキ・ケンタロウは、議場の末席に座っていたローガン・ハイネ局長の顔色が青ざめるのを目撃してしまった。
ケンウッドはアイダに思い留まるようにと言った。彼女は何も言わなかった。長官が退官希望届けを暫く保留すると言うと、彼女は「反対される理由はありません」とだけ言った。すると、ハイネが席を立って議場から退出してしまった。
「サヤカは、孫に彼女の子供と同じ寂しい思いをさせたくないんだ。彼女の子供達は働いている。1人はコロニー政府の官僚で多忙らしい。配偶者もいるのだが、コロニーでは夫婦で子供を育てるのが常識だ。どちらか片方だけで育てるのは社会常識から外れる。だが官僚ともなると時間の自由が効かなくてね・・・それでサヤカが代わりに子供の配偶者と一緒に孫の面倒を見ようと考えているんだ。」
「コロニー人の都合なんて知りませんよ。」
ハイネが子供の様に拗ねた。
「私は彼女がいなくなるのが嫌だ、それだけです。」