2018年3月2日金曜日

脱落者 13 - 7

 エイリアス大佐が咳払いして一同の注意を自分に向けた。大佐はなんども無視されることに若干苛立っていたが、なんとか辛抱して一番理性的と思われるケンウッドに向けて質問した。

「その地球人はどうやって軍のデータベースのパスワードを入手したか打ち明けたのかね?」

 ケンウッドはこの際正直に喋ってしまおうと決心した。下手に隠すとドナヒュー軍曹の立場が却って悪くなるだけだろう。

「ハイネ局長はテロ事件で負傷して入院していました。そこへ地球周回軌道防衛軍憲兵隊のドナヒュー軍曹が事情聴取に訪れました。当方の保安課長と医師が立ち会いました。軍曹が局長と面会したのはその時だけです。局長はまだ体を動かせず、枕から頭を上げることも出来ませんでした。彼はタブレットを打つ軍曹の指の動きを見ていただけです。」
「指の動き?」

 するとハレンバーグ名誉顧問が面白そうに笑った。

「ローガン・ハイネとダニエル・オライオンの部屋兄弟達は子供時代、他人の指の動きでどのキーを打ったか当てる遊びが好きだったのだ。」

 するとハナオカ委員長も言った。

「ダニエルのお気に入りの遊びだったそうですね。私は見たことがないが、養育棟の執政官が1日に1回は彼にせがまれると言っていました。ハイティーンになるまで彼等はあの遊びをしていました。指の動きより手の甲の筋肉の動きでキーを当てるんですよ。」

 またぞろお気に入りの地球人の自慢が再開された。ハレンバーグとハナオカは彼等が育てたドーマー達の幼い頃の思い出話をいくらでも語りそうだったので、ケンウッドは急いで割り込んだ。

「あの時、地球周回軌道防衛軍はテロ組織に通信を傍受されるのを防ぐ目的で、月と地球の間の通信を停止させていました。ですからドナヒュー軍曹は複数のサーバーを経由して憲兵隊のコンピュータに事情聴取の内容を送信していました。ハイネ局長はその時の彼女の指の動きをそっくり彼の部屋のコンピュータで真似てみただけなのです。結果的に憲兵隊本部のデータベースにたどり着いてしまったのですが・・・」

 彼はいかにも偶然ハイネが憲兵隊本部にハッキングした様に聞こえるよう、喋った。だがハイネは調査目的で宇宙にあるコンピュータにアクセスしたのだ。相手がどこのデータベースかわかっていてやった。それにエイリアス大佐が気がつかないでくれ、と心の中で願った。

 エイリアス大佐が深い溜め息をついた。

「その・・・スパイ能力が抜群の地球人は、2度と我が軍のデータベースにアクセスしないと保証出来るかね?」
「彼は分別のある男です。」

 ここでローガン・ハイネの性格を案じても仕方がない。ケンウッドは軍人を安心させてこの会合を終わらせた。