2018年3月25日日曜日

泥酔者 3 - 3

 食事の後、男達は大きな窓があるリビングに移動した。キーラは義妹とキッチンで何やら甘い物を作っていた。

「子供達は留守番ですね?」

 ブラコフが尋ねると、パーシバルが端末を出して写真を見せた。

「息子のローガンはバスケットチームの合宿に行っているんだ。やんちゃでエネルギーが余っているので運動クラブに入れた。」

 母親の赤毛をそのまま受け継いだ少年の写真を見て、ブラコフは微笑んだ。

「顔は父さん似ですね!」
「祖父さんに似ればイケメンなのになぁ・・・」
「パーシバル博士だってイケメンですよ。」
「お世辞が上手くなったと言って欲しいのか?」

 パーシバルは笑ってから、呟いた。

「髪が白くなくて良かったよ。ハイネの血統だって知られたら、月の本部が黙っちゃいなかったろうからね。」

 2人の女の子は一卵双生児で、母親に似ていたが、髪の色は父親と同じダークブラウンだった。名前はショシャナとシュラミスだ。

「この2人がお喋りで、本当に煩い・・・賑やかで良いと他人は言うけど、僕の研究の邪魔ばかりするんだよ。」

と言いつつも、パーシバルの目尻が下がっているので、ブラコフは笑うしかなかった。

「ママ似と言うことは、お祖父さん似ですね・・・」
「幸いキーラと似ているので、執行部の人が先日訪問した時、気付かれなかった。」

 ブラコフの耳に、パーシバルはやっと聞こえる低い声で囁いた。

「2人とも、『待機型』を持っている。」

 ブラコフは聞こえなかったふりをした。ハイネの孫がハイネの進化型1級遺伝子を持っていると言うことは、当然ながら母親のキーラも持っているのだ。マーサ・セドウィックが娘の父親の正体を頑として明かさなかったのは、正しかったのだ。もし、キーラの遺伝子を調べられたら、赤ん坊の段階でキーラは地球に送還されていただろう。そしてドーマーとして一生をドームの中で過ごした筈だ。
 パーシバルとセドウィックの双子の女の子は、「待機型」を持っていても、地球人と無関係のコロニー人として自由に生きていける。ヘテロなので遺伝子の力に悩まされずに済む。祖父の名前をもらった男の子のローガンは祖父の特殊な遺伝子をもらわずに済んだのだ。しかし父親のパーシバルはそれがちょっと残念そうだった。

「もしかして、博士は小さなハイネを育てたかったのでは?」

とブラコフがからかうと、パーシバルは頰を赤くして笑った。

「まさに、その通り!」