「必要だった? どんな必要性があったのだ?」
エイリアス大佐は地球人類復活委員会が主導権を持つこの会合が気に入らなかった。彼はハッカーの正体と目的を調査する為に来たのだが、委員会の連中はそれを全て知っている様だ。
ケンウッドは簡潔に説明した。
「当方のドームで勤務していた女性薬剤師が、逮捕されたフェリート薬剤管理室長に騙されて爆薬の触媒を製造してしまいました。彼女は友人達の命を奪ってしまった罪の大きさに少し精神状態が不安定になっています。ハイネは全てのドーマーを守る義務を負っています。彼は彼女がどの様な言葉で室長に惑わされたのか調べているのです。彼女の精神を安定させてから裁判を受けさせるつもりです。」
「それが軍のデータベースとどう言う関係があるのだ?」
「ハイネは軍が殺害された研究者達の背後関係を調べているだろうと思って、ただ覗きに行っただけなのです。コロニー人の家庭の事情などは地球人に調査できませんからね。それ以上の情報は彼には無意味です。彼は余計なものは見ていません。」
本当に見ていないのか、ケンウッドは知らなかったが、ここは見ていないと押し通すしかない。宇宙連邦軍がドーマーを拷問にかけることは避けたい。人間の記憶を消すくらい軍は平気でやるだろう。ハイネの膨大な知識からほんのちょっぴりの過去を消すのは不可能だ。彼の脳にダメージを与えたくなければ、ここはしらばっくれることが重要だ。
そして頼もしいことに、この部屋の中にいる大佐以外の人間全員がケンウッドの味方だった。ハレンバーグ名誉顧問が誇らしげに言った。
「大佐、ローガン・ハイネは私がドーム勤務時代に育てた様なものだ。あのドーマーは優秀なだけでなく、実に礼儀正しい。決して執政官に逆らわないし、年長者を敬い、自身より劣る者にも丁重に接する。何が大切で何が無駄かよく理解している。必要な情報を収集しても彼自身にとって意味のないものは直ぐ忘れるのだ。」
ケンウッドは何故ハレンバーグがここに居るのか理解した。ハナオカ委員長はハッカーの通報を憲兵隊から受けた時に、犯人がわかったのだ。そしてローガン・ハイネをこよなく愛する委員会の長老に連絡を入れた。ハレンバーグは追悼式出席よりもハイネを庇うのが目的でここに居るのだ。
エイリアス大佐は、まるで大好きなアイドルの話を語る少女みたいに喋り続ける老人をうんざりした表情で見返した。しかしハレンバーグの方もそれを承知の上で語り続けているのだ。
やがてハレンバーグの勢いが落ちて来た。流石に老齢なので長時間のお喋りは体に応えるようだ。遂にエイリアス大佐が折れた。
「わかった、ハレンバーグさん、そのハイネとやらは、悪気があってハッキングしたのではないと、貴方方は保証するのですな?」
「勿論!」
ふむ・・・と大佐は考え込んだ。その間にハナオカがヴェルティエンに話しかけた。
「先程の選挙結果は残念だったな、ヴェルティエン君。」
「ああ・・・いえ、あれで良かったのです。僕は科学者ではありませんから・・・」
「しかし君の文化人類学者としての知識と考察は、ドーム長官の職には必要だと思うが・・・」
ふとハナオカは何かと思いついて、ケンウッドを振り返った。
「ケンウッド博士、ヴェルティエン君を君のところの副長官にしてはどうだろう?」
「それは・・・」
「ブラコフ博士の復帰は当分先の話だろう? 君も色々とやることが多くて大変な筈だ。」
「ブラコフは辞職する意思はありませんが・・・」
「しかし半年も休業するのでは、君が倒れるだろう。だから、この際、ヴェルティエンを昇進させて、副長官を2人置くことにしてはどうか?」
「2人副長官ですか・・・」
「そうすれば、ブラコフ君も安心して治療に専念出来るだろうし、ヴェルティエン君は科学者としての副長官が必要な時にブラコフ君の助太刀を得られる。如何かな?」
エイリアス大佐は地球人類復活委員会が主導権を持つこの会合が気に入らなかった。彼はハッカーの正体と目的を調査する為に来たのだが、委員会の連中はそれを全て知っている様だ。
ケンウッドは簡潔に説明した。
「当方のドームで勤務していた女性薬剤師が、逮捕されたフェリート薬剤管理室長に騙されて爆薬の触媒を製造してしまいました。彼女は友人達の命を奪ってしまった罪の大きさに少し精神状態が不安定になっています。ハイネは全てのドーマーを守る義務を負っています。彼は彼女がどの様な言葉で室長に惑わされたのか調べているのです。彼女の精神を安定させてから裁判を受けさせるつもりです。」
「それが軍のデータベースとどう言う関係があるのだ?」
「ハイネは軍が殺害された研究者達の背後関係を調べているだろうと思って、ただ覗きに行っただけなのです。コロニー人の家庭の事情などは地球人に調査できませんからね。それ以上の情報は彼には無意味です。彼は余計なものは見ていません。」
本当に見ていないのか、ケンウッドは知らなかったが、ここは見ていないと押し通すしかない。宇宙連邦軍がドーマーを拷問にかけることは避けたい。人間の記憶を消すくらい軍は平気でやるだろう。ハイネの膨大な知識からほんのちょっぴりの過去を消すのは不可能だ。彼の脳にダメージを与えたくなければ、ここはしらばっくれることが重要だ。
そして頼もしいことに、この部屋の中にいる大佐以外の人間全員がケンウッドの味方だった。ハレンバーグ名誉顧問が誇らしげに言った。
「大佐、ローガン・ハイネは私がドーム勤務時代に育てた様なものだ。あのドーマーは優秀なだけでなく、実に礼儀正しい。決して執政官に逆らわないし、年長者を敬い、自身より劣る者にも丁重に接する。何が大切で何が無駄かよく理解している。必要な情報を収集しても彼自身にとって意味のないものは直ぐ忘れるのだ。」
ケンウッドは何故ハレンバーグがここに居るのか理解した。ハナオカ委員長はハッカーの通報を憲兵隊から受けた時に、犯人がわかったのだ。そしてローガン・ハイネをこよなく愛する委員会の長老に連絡を入れた。ハレンバーグは追悼式出席よりもハイネを庇うのが目的でここに居るのだ。
エイリアス大佐は、まるで大好きなアイドルの話を語る少女みたいに喋り続ける老人をうんざりした表情で見返した。しかしハレンバーグの方もそれを承知の上で語り続けているのだ。
やがてハレンバーグの勢いが落ちて来た。流石に老齢なので長時間のお喋りは体に応えるようだ。遂にエイリアス大佐が折れた。
「わかった、ハレンバーグさん、そのハイネとやらは、悪気があってハッキングしたのではないと、貴方方は保証するのですな?」
「勿論!」
ふむ・・・と大佐は考え込んだ。その間にハナオカがヴェルティエンに話しかけた。
「先程の選挙結果は残念だったな、ヴェルティエン君。」
「ああ・・・いえ、あれで良かったのです。僕は科学者ではありませんから・・・」
「しかし君の文化人類学者としての知識と考察は、ドーム長官の職には必要だと思うが・・・」
ふとハナオカは何かと思いついて、ケンウッドを振り返った。
「ケンウッド博士、ヴェルティエン君を君のところの副長官にしてはどうだろう?」
「それは・・・」
「ブラコフ博士の復帰は当分先の話だろう? 君も色々とやることが多くて大変な筈だ。」
「ブラコフは辞職する意思はありませんが・・・」
「しかし半年も休業するのでは、君が倒れるだろう。だから、この際、ヴェルティエンを昇進させて、副長官を2人置くことにしてはどうか?」
「2人副長官ですか・・・」
「そうすれば、ブラコフ君も安心して治療に専念出来るだろうし、ヴェルティエン君は科学者としての副長官が必要な時にブラコフ君の助太刀を得られる。如何かな?」