2018年3月4日日曜日

脱落者 15 - 4

 ケンウッドはハイネとヴェルティエンを連れて昼食を取りに一般食堂へ行った。ブラコフも誘いたかったが、彼はまだ口から食事を取れなかったので、医療区に戻って行った。自動センサー付きの車椅子で介護なしで独りで来て、独りで戻って行ったのだ。ブラコフは勇気があるが、許可したヤマザキも大胆な医者だ、とケンウッドは思った。
 昼食時間は遅かったので食堂内は空いていた。空いている時間がケンウッドもハイネも好きだった。普通に昼休みを取っていたヴェルティエンは、食堂内を見渡した。彼はどちらかと言えば中央研究所の食堂で食事をして、庭園で休憩するのが昼休みの過ごし方だったので、一般食堂は賑やかな場所だと思っていたし、空いている時間が珍しいのだ。

「かなり広いんですね、こっちは。」
「まさか初めて来た訳ではあるまいに。」
「でも、空いている時間帯は大概僕の昼寝時間ですから。」

 彼はハイネに向かってウィンクした。

「局長も庭園でお昼寝なさるでしょう? でも一番他人に邪魔されない場所をご存知ですか?」

 ケンウッドはハイネが溜め息をつくのを見た。遺伝子管理局長は相手を見て言った。

「副長官、ドーマーに敬語を使用なさるのはお止しなさい。」
「しかし・・・」

 数日前迄秘書だった男は少々うろたえた。

「僕は地球に勤務して15年・・・ずっとこう言う喋り方で貴方と接して来ましたから・・・」

 ハイネが肩を竦め、ケンウッドが苦笑した。

「ハイネ、慣れる迄我慢してやれ。それにヴァンサンは執政官になるつもりもなかった人間だ。急にドーマーの『親』と言われても戸惑うだけだ。」

 ハイネは長官を見て、また視線を副長官に戻した。それでヴェルティエンはもう一度尋ねた。

「さっき僕が言った場所がわか・・・る?」

 ハイネは数秒間彼を見つめ、副長官の緊張がマックスになる頃に、ゆっくりと首を振った。

「いいえ。」

 ケンウッドが吹き出した。

「ハイネ、君も人が悪いぞ。」
「私は考えていただけですよ。」

 その時、ハイネの端末に着信があった。ハイネは上司達に断りを入れて電話に出た。

「局長、ベイルです。午後にお時間をいただけますか? 場所は本部でなくても良いのですが・・・レインが、局長とセルシウス・ドーマーの会話を小耳に挟んで気になることがある、と言うのです。何の話か彼は言いませんが、私にも聞いて欲しいと申しますので・・・。」

 ハイネはレインが上手く話に食いついてくれたので、胸の内で微笑んだ。顔は無表情に

「わかった、では午後3時に一般食堂でどうだ? お茶でもしながら、何をレインが気にしているのか、聞こう。」

と答えた。ヴェルティエンが時計を見た。

「お茶の時間まで、2時間もありませんが・・・?」

 ハイネの目がまた彼を見つめた。だからどうした? と目で問われ、新副長官はドキドキした。