ポール・レイン・ドーマーはジムの玄関横にあるモニュメントの根元に座っていた。モニュメントは何の意味があるのか知らないが、昔からそこに存在しており、ドーマー達の待ち合わせの場所の一つになっていた。レインは誰とも待ち合わせてなどいなかった。運動施設内を歩き回り、サウナやジャグジーまで覗いてみたが、ハイネ局長の姿はどこにもなかった。レインは今くたびれているのだ。明日は出動に備えて体調を整え、抗原注射の予約を入れないといけない。部下達が十分休息を取れたか、チェックもしなければならない。
彼は端末を出して眺めた。運動施設内は事故防止の為、電話は禁止だ。誰かが怪我をしたり倒れた時に緊急連絡をすること以外、基本的にどんな使用方法も禁止だった。だから中に局長がいるかも知れないと使わずに我慢した。外に出て使おうかと思ったが、時刻は遅くなっており、もし局長が既にアパートの自室で休んでいるとしたら、電話は遠慮するべきだ。
正直なところ、レインは望んで手に入れた地位に今は振り回されている。班チーフは仕事の時間配分を決める権限があり、支局巡りも部下と違って気が向く所に自由に行ける。
だからダリル・セイヤーズ・ドーマー搜索に時間を取れると思っていたのだが、大間違いだった。先ずは部下の身の安全や健康状態に気を配らねばならない。チーム毎の巡回コースや外勤務のシフトを考えなければならない。抗原注射の効力切れに神経を尖がらせ、部下が制限時間迄にドームに帰投出来るようにシフトを組むのだ。それから難問を抱える申請書の決裁や、申請者への面会もある。ちょっと時間に余裕が出来たと思えばチーフ会議が開かれる。ドーマーとして生まれた以上は、きちんと職務を果たすのが義務だ。
ダリルは多分、規則に縛られるのが嫌だったのだ。昔から平気で規則破りをする子供だった。見境なく違反するのではなく、彼は納得がいかない規則を蹴飛ばすのだった。恐らくサンテシマに従わなければならないと言う、コロニー人に逆らってはいけないドーマーの基本の約束事が嫌だったのだ。今、レインがコロニー人の規則に従って部下達を統率しているのを見たら、何て言うだろう。
俺はコロニー人に命令されてやってるんじゃない、ローガン・ハイネに従ってついて行くだけだ。
その局長はどこに? と思っていると、「チーフ・レイン」と声を掛けられた。振り向くと、先刻のゲストハウス係のドーマーが立っていた。私服だから、もう勤務を上がって運動して帰宅する所だろう。
「先ほどはご迷惑おかけしました。」
ゲストハウス係はちょっと緊張していた。遺伝子管理局はエリート集団で、美しいポール・レイン・ドーマーはドームの大スターだ。話しかけるのも勇気がいるのだった。レイン自身はそんなことに無頓着だった。彼はスター意識など持っていない。
「あの無礼なコロニー人のことか? あれは君の責任じゃないだろう。あの人個人の問題だ。」
答えてから、レインは尋ねた。
「本当にあの人はここで働く新入りの執政官なのか?」
「ええ・・・1ヶ月早く来てしまったそうです。」
「1ヶ月も早く?」
レインは吹き出した。
「それは問題だ。ここはそんな暇な場所じゃないぞ。彼はコロニーで何か問題を起こして逃げて来たんじゃないのか?」
「それは存じませんが・・・」
ゲストハウス係がさっと周囲を見回して小声で囁いた。
「研究所からのリークですけど・・・あの人、ローガン・ハイネを激怒させたそうです。」
彼は端末を出して眺めた。運動施設内は事故防止の為、電話は禁止だ。誰かが怪我をしたり倒れた時に緊急連絡をすること以外、基本的にどんな使用方法も禁止だった。だから中に局長がいるかも知れないと使わずに我慢した。外に出て使おうかと思ったが、時刻は遅くなっており、もし局長が既にアパートの自室で休んでいるとしたら、電話は遠慮するべきだ。
正直なところ、レインは望んで手に入れた地位に今は振り回されている。班チーフは仕事の時間配分を決める権限があり、支局巡りも部下と違って気が向く所に自由に行ける。
だからダリル・セイヤーズ・ドーマー搜索に時間を取れると思っていたのだが、大間違いだった。先ずは部下の身の安全や健康状態に気を配らねばならない。チーム毎の巡回コースや外勤務のシフトを考えなければならない。抗原注射の効力切れに神経を尖がらせ、部下が制限時間迄にドームに帰投出来るようにシフトを組むのだ。それから難問を抱える申請書の決裁や、申請者への面会もある。ちょっと時間に余裕が出来たと思えばチーフ会議が開かれる。ドーマーとして生まれた以上は、きちんと職務を果たすのが義務だ。
ダリルは多分、規則に縛られるのが嫌だったのだ。昔から平気で規則破りをする子供だった。見境なく違反するのではなく、彼は納得がいかない規則を蹴飛ばすのだった。恐らくサンテシマに従わなければならないと言う、コロニー人に逆らってはいけないドーマーの基本の約束事が嫌だったのだ。今、レインがコロニー人の規則に従って部下達を統率しているのを見たら、何て言うだろう。
俺はコロニー人に命令されてやってるんじゃない、ローガン・ハイネに従ってついて行くだけだ。
その局長はどこに? と思っていると、「チーフ・レイン」と声を掛けられた。振り向くと、先刻のゲストハウス係のドーマーが立っていた。私服だから、もう勤務を上がって運動して帰宅する所だろう。
「先ほどはご迷惑おかけしました。」
ゲストハウス係はちょっと緊張していた。遺伝子管理局はエリート集団で、美しいポール・レイン・ドーマーはドームの大スターだ。話しかけるのも勇気がいるのだった。レイン自身はそんなことに無頓着だった。彼はスター意識など持っていない。
「あの無礼なコロニー人のことか? あれは君の責任じゃないだろう。あの人個人の問題だ。」
答えてから、レインは尋ねた。
「本当にあの人はここで働く新入りの執政官なのか?」
「ええ・・・1ヶ月早く来てしまったそうです。」
「1ヶ月も早く?」
レインは吹き出した。
「それは問題だ。ここはそんな暇な場所じゃないぞ。彼はコロニーで何か問題を起こして逃げて来たんじゃないのか?」
「それは存じませんが・・・」
ゲストハウス係がさっと周囲を見回して小声で囁いた。
「研究所からのリークですけど・・・あの人、ローガン・ハイネを激怒させたそうです。」