2018年3月19日月曜日

泥酔者 2 - 8

 朝食会は和やかに・・・しかし微妙な緊張感の元に始まった。ポール・レイン・ドーマー班チーフ自らが仲間の出欠をとり、「いない奴には後で連絡」と誰にともなく言った。局員達は同じチームの中の連絡網を作っているので、すぐにメールで情報が飛ぶのだ。各チームのその日の予定がチームリーダーから告げられる。外勤務で外泊しているチームは当然欠席だ。
 食事はすでに始まっていて、食べながらの打ち合わせ会だ。レインは自身の皿に盛られたベーコンやポテトサラダや生野菜を味わいながら、そっと隣の席のトレイを横目で伺った。想定外の参加者、ローガン・ハイネ局長の皿には大きなボウルが一つ載っていて、中にはモツァレラチーズ、レタス、オリーヴ、トマト、数種類の煮豆、胡瓜、アボカド、ベリー類、シリアルといろんな物がごちゃ混ぜに詰め込まれていた。ハイネはそれにオリーヴオイルとバルサミコ酢をかけてグシャグシャと混ぜて、美味しそうに食べている。打ち合わせ会の内容には耳を傾けた様子はない。だが、局長執務室で開かれる班チーフ会議に数回出席しただけで、レインはこの人物がいつもぼーっとしている様に見えて実際はしっかり他人の話を聞いていることを知った。若い局員達は局長の同席に緊張していたが、局長がリラックスして食べることに専念している、と油断してしまった。
 レインが、仕事の話を始めた。世間話の様な軽いタッチで話始めたので、聞き逃した者もいた。

「中西部地域のメーカーどもの間で、奇妙な噂が流れているが、誰か聞いたことがある奴、いるか?」

 ごにょごにょと私語に熱中している若者数人がチラッとチーフを見たが、すぐ自分達の会話に戻った。レインはチームリーダー達の顔を見た。
 すると、ハイネが呟いた。

「1人足りない・・・」

 レインはチームリーダーの人数のことだと直ぐに気がついた。1人足りない理由を上司に囁いた。

「ワグナーは妻帯しているので、朝食は奥さんとアパートで摂るんです。」

 ハイネは成程、と頷いた。レインはさらに説明を追加した。

「彼は俺の副官なので、打ち合わせに遅れても部下の業務内容はほぼ全部把握しています。」

 ハイネはボウルの中を見つめたまま、小さく頷いた。そして誰もレインの問いかけに答える者がいないと思ったので、話の続きを促した。

「奇妙な噂とは?」

 すると、2人おいた席のドーマーが言った。

「4Xのことでしょうか?」