ハレンバーグ名誉顧問はケンウッドの記憶が確かなら、既に110歳を超えている筈だ。足腰は弱ってしまい、月のコロニーでさえも反重力サスペンダーの助けがなければ立っていられない。それでもまだ眼光が鋭く、知性を感じさせる。彼は斜め前に座ったケンウッドに微笑みかけた。
「久しぶりだな、ケンウッド博士。元気そうだな。この度のドームで起きた悲劇には心からお悔やみ申し上げる。」
「有り難うございます。貴方もお元気そうで何よりです。」
ハナオカ委員長が主導権を取ろうと地球からの客に話しかけた。
「今日は忙しいところをご苦労だった。多くの人が参列してくれて、追悼式も無事に終わって安堵している。アメリカ・ドームも少しは落ち着いたかね?」
「テロを仕掛けた者が特定されて拘束されたので、取り敢えず安心したところです。不幸中の幸いでアフリカ・ドーム程の大きな被害は出ませんでしたから。」
ハナオカが何か言いかけたのに、ハレンバーグが割り込んだ。
「しかし、我々の可愛いドーマーが傷モノにされた。」
ケンウッドがムッとすると、若いヴェルティエンが先にハレンバーグの言葉に反論した。
「ローガン・ハイネは負傷しましたが、彼の価値が損なわれた訳ではありません。」
ハナオカが急いで口を挟んだ。
「アメリカ・ドームでは副長官が重傷を負わされた。長官の仕事が増えて大変だろう、ケンウッド博士。」
「仲間が助けてくれていますから・・・彼等の為に早く地球へ戻りたいのですが、用件は何でしょうか?」
それまで無視されていたエイリアス大佐がやっと出番が回ってきたと言う顔で口を開いた。
「貴方のドームから我等が憲兵隊のコンピュータに無断侵入した者がいる。」
ケンウッドは隠すつもりなど毛頭なかったので、即時答えた。
「ローガン・ハイネ遺伝子管理局長です。」
「やはりハイネか!軍のデータベースに入るとは、流石だな。」
「あんな大胆な悪戯ができるのは、あの男しかおらんだろう!」
ハレンバーグとハナオカが口々に彼等が育てたドーマーを誇らしげに呼んだ。お陰でエイリアス大佐は怒りを向ける標的を失ったかの様な気分に陥った。彼は苛立たしげに尋ねた。
「ハイネとは?」
「えっ? ハイネをご存知ないのですか?」
ヴェルティエンが驚きの声を上げた。 ハナオカの秘書もびっくりして大佐を見たので、大佐は赤くなった。
件の地球人のハッカーはそんなに有名なのか?
「アメリカ・ドームの遺伝子管理局の最高責任者だよ、大佐。」
110歳を超えるハレンバーグ名誉顧問は軍人など怖くない、と言った風情で大佐に話しかけた。
「ドーマーと言う、研究用に当委員会が赤ん坊の時から養育している地球人達のリーダーだ。生まれつき優秀な男でな・・・」
「進化型1級遺伝子危険値S1を持っているのではないのか?」
危険値S1の遺伝子は宇宙連邦法により、軍が管理することになっている。
ケンウッド、ヴェルティエン、ハナオカ、ハレンバーグ、それにハナオカの秘書までがブンブンと首を横に振った。
「危険値S1は個体差があるが、あれは親の記憶を生まれながらに持っているのだよ、大佐。」
とハレンバーグが説明した。
「親はその親の記憶を持って生まれるから、危険値S1が生まれた時に持っている知識は膨大だ。彼等は学習する必要がない。機械を見ただけで、使い方も構造もわかってしまうのだから。しかし、話題のローガン・ハイネは危険値S1を持っていない。それは彼に接したことがある執政官なら皆知っている。ハイネは、学習しなければ機械を使えない。我々と同じだ。ただ、彼は恐ろしく頭が良い。記憶力は抜群だし、計算力も思考力も高い。だからちょっとしたヒントを与えれば、あとは彼自身で考えて解決出来るのだ。」
ケンウッドはハイネの言葉をそのまま言うべきか迷った。ハッキングした方法をここで明かせば、ドナヒュー軍曹が過失を咎められるかも知れない。
ケンウッドは言った。
「ハイネは、必要だったからやりました、と言いました。」
「久しぶりだな、ケンウッド博士。元気そうだな。この度のドームで起きた悲劇には心からお悔やみ申し上げる。」
「有り難うございます。貴方もお元気そうで何よりです。」
ハナオカ委員長が主導権を取ろうと地球からの客に話しかけた。
「今日は忙しいところをご苦労だった。多くの人が参列してくれて、追悼式も無事に終わって安堵している。アメリカ・ドームも少しは落ち着いたかね?」
「テロを仕掛けた者が特定されて拘束されたので、取り敢えず安心したところです。不幸中の幸いでアフリカ・ドーム程の大きな被害は出ませんでしたから。」
ハナオカが何か言いかけたのに、ハレンバーグが割り込んだ。
「しかし、我々の可愛いドーマーが傷モノにされた。」
ケンウッドがムッとすると、若いヴェルティエンが先にハレンバーグの言葉に反論した。
「ローガン・ハイネは負傷しましたが、彼の価値が損なわれた訳ではありません。」
ハナオカが急いで口を挟んだ。
「アメリカ・ドームでは副長官が重傷を負わされた。長官の仕事が増えて大変だろう、ケンウッド博士。」
「仲間が助けてくれていますから・・・彼等の為に早く地球へ戻りたいのですが、用件は何でしょうか?」
それまで無視されていたエイリアス大佐がやっと出番が回ってきたと言う顔で口を開いた。
「貴方のドームから我等が憲兵隊のコンピュータに無断侵入した者がいる。」
ケンウッドは隠すつもりなど毛頭なかったので、即時答えた。
「ローガン・ハイネ遺伝子管理局長です。」
「やはりハイネか!軍のデータベースに入るとは、流石だな。」
「あんな大胆な悪戯ができるのは、あの男しかおらんだろう!」
ハレンバーグとハナオカが口々に彼等が育てたドーマーを誇らしげに呼んだ。お陰でエイリアス大佐は怒りを向ける標的を失ったかの様な気分に陥った。彼は苛立たしげに尋ねた。
「ハイネとは?」
「えっ? ハイネをご存知ないのですか?」
ヴェルティエンが驚きの声を上げた。 ハナオカの秘書もびっくりして大佐を見たので、大佐は赤くなった。
件の地球人のハッカーはそんなに有名なのか?
「アメリカ・ドームの遺伝子管理局の最高責任者だよ、大佐。」
110歳を超えるハレンバーグ名誉顧問は軍人など怖くない、と言った風情で大佐に話しかけた。
「ドーマーと言う、研究用に当委員会が赤ん坊の時から養育している地球人達のリーダーだ。生まれつき優秀な男でな・・・」
「進化型1級遺伝子危険値S1を持っているのではないのか?」
危険値S1の遺伝子は宇宙連邦法により、軍が管理することになっている。
ケンウッド、ヴェルティエン、ハナオカ、ハレンバーグ、それにハナオカの秘書までがブンブンと首を横に振った。
「危険値S1は個体差があるが、あれは親の記憶を生まれながらに持っているのだよ、大佐。」
とハレンバーグが説明した。
「親はその親の記憶を持って生まれるから、危険値S1が生まれた時に持っている知識は膨大だ。彼等は学習する必要がない。機械を見ただけで、使い方も構造もわかってしまうのだから。しかし、話題のローガン・ハイネは危険値S1を持っていない。それは彼に接したことがある執政官なら皆知っている。ハイネは、学習しなければ機械を使えない。我々と同じだ。ただ、彼は恐ろしく頭が良い。記憶力は抜群だし、計算力も思考力も高い。だからちょっとしたヒントを与えれば、あとは彼自身で考えて解決出来るのだ。」
ケンウッドはハイネの言葉をそのまま言うべきか迷った。ハッキングした方法をここで明かせば、ドナヒュー軍曹が過失を咎められるかも知れない。
ケンウッドは言った。
「ハイネは、必要だったからやりました、と言いました。」