2017年8月15日火曜日

侵略者 10 - 12

 ランディ・マーカス・ドーマーはケンウッドの目をじっと見つめて、

「これから話すことは他言無用に願います。勿論、私が貴方に話したことをローガン・ハイネに明かしてもらっては困る。」
「わかりました。誰にも言いません。」

 ケンウッドが誓うと、老ドーマーは彼に尋ねた。

「ローガン・ハイネに弟が居たことはご存じかな?」
「はい、ダニエル・オライオン、その人から聞きました。」
「そうですか、では話は早い。オライオンがドームを去った後、ローガン・ハイネはふさぎ込みました。執政官達は彼の機嫌を取ろうとあの手この手で試してみましたが、無駄でした。そのうちに執政官達が恐れていたことが起こりました。彼がドームを脱走しようとしたのです。」
「ええっ!」

 ケンウッドは仰天した。ローガン・ハイネ・ドーマーがドーム脱走を企てたことがあったのか?
 マーカス・ドーマーが苦笑した。

「外の世界を知らない男が企てたちゃちな計画でした。彼はカードと端末だけ持って、ただ弟に会いに行こうとしただけだったのですがね。外の世界のあらゆる汚れから遠ざけて育てたドーマーの外出を執政官達が許すはずがないでしょう。
 ローガン・ハイネは西の回廊の半分も行かない地点で追っ手に追いつかれ、抵抗空しく連れ戻されました。彼が人前で泣いたのは、あの時が最初で最後でした。」

 ケンウッドはわかる気がした。ハイネはオライオンの人生に責任を感じていた。同時に弟を深く愛していた。

「執政官達は、何か彼の気を紛らわせるものを与えようと考えました。そして、あろうことか、女に彼を誘惑させたのです。」
「女?」
「女性執政官達は彼に興味を抱いていましたから、候補は10人以上いたそうです。彼女達は若いドーマーを代わる代わる誘惑しました。彼女達にとっては遊びのレベルだったのでしょう。」
「まさか・・・ハイネは本気になった?」
「ローガン・ハイネは普通の男ですから。」

 最低だ、とケンウッドは思った。当時の執政官達は最低だ。弟を失って泣いた若者を色気で誘惑して寂しさを誤魔化したのだ。

「地球人保護法があるでしょう?」
「地球人側から告訴があればね。女性に本気で惚れてしまった若者が訴えるはずがありません。」
「彼が本気になって・・・女性側はどうだったのです?」
「彼女も本気になった。拙いことに・・・」

  マーカス・ドーマーはそこで言い淀んだ。

「地球人類復活委員会は、その相手の女性執政官を月に召還して、それっきりドームに戻しませんでした。ドーマー側の失恋と言う形で、連中は事態を収めたのです。」
「彼はまた落ち込んだのですか?」

 ケンウッドは若いハイネが可哀想に思えた。誕生日プレゼントに弟をもらい、弟をドームの外に出されてしまい、慰みに女性達に誘惑され、本気になった女性も取り上げられ・・・。

「我々執政官と名乗る人間達は、一体全体地球へ何をしに来ているのでしょうね。」

とケンウッドは呟いた。

「ドーマー達の心を弄んで、高みから見下ろして神様気分、飼い主気分で喜んでいる・・・ドーマー達を逆らわないように教育までして、心の侵略者も良いところですよ。」

 本気で腹を立てているケンウッドをマーカス・ドーマーが眺めた。

「そうやって本気で怒って下さる貴方を、ローガン・ハイネは信用しているのです。どうか、この地球の為に、若いドーマー達と共に働いて下さい。」

 そして最後に老ドーマーは爆弾を一つケンウッドの心に落とした。

「そうそう、ローガン・ハイネが惚れた女の名前は、マーサ・・・マーサ・セドウィックです。キーラの母親です。」