1ヶ月後、リプリー副長官は月の地球人類復活委員会本部に召還された。執行部の幹部や理事会幹部達が居並ぶ本会議で、彼は先ずサンテシマ・ルイス・リンが進化型1級遺伝子危険値S1のドーマーを逃亡させてしまった過失を問われて遺伝子学会から永久追放されたことを聞かされた。この処分は刑罰ではなかったが、リンが築き上げた製薬会社の信用を堕とすには充分だった。会社は彼を創業者ではあるものの役員解任を通告した。また。リンは地球人に性的関係を強制した罪にも問われ、こちらは刑事罰の対象となった。地球人側から告訴があったからだ。宇宙連邦裁判所の月の法廷では、地球人の証人喚問が不可能なので地球人保護法を用いて原告抜きで裁判を行った。リプリーはリンとそのシンパの行動を逐一本部に訴えていたので、証人として出廷するよう指示された。
その後で、彼は本会議場でアメリカ・ドームの長官就任を打診された。リプリーはそれでは約束が違うと抗議した。
「ドームとしがらみのない新人が長官に選ばれると言う約束だったではありませんか。私は飽くまで繋ぎです。長官職は気が重い。どうか副長官のままで居させて下さい。」
ハレンバーグが困惑して彼に言った。
「新しい人物が長官では、ドーマー達が不安がる。それにハイネ遺伝子管理局長もやり辛かろう。副長官を選ぶので、君は長官職に就いて欲しい。」
リプリーは首を振った。
「私はハイネと上手くやっていく自信がありません。彼が私の長官就任を歓迎するとも思えません。」
「彼と喧嘩でもしたのか?」
「いいえ・・・彼の部下を10名ばかり、リン一派のペットになっていた連中を私の独断で処分してしまいました。ハイネの許可もなく降格したのです。ハイネは執政官の介入が気に入らなかったらしく、それ以来私に口を利いてくれません。」
ハレンバーグ委員長はシュウ副委員長を見た。シュウは肩をすくめただけだった。心の中ではこう呟いていたものの・・・。
この人は本当にハイネを知らないのね。彼はチーズを与えればすぐ機嫌を直すのに。
ハレンバーグは譲歩した。
「では5年・・・5年間だけ長官職を勤めてくれ。その間に適任者を探す。」
「しかし、遺伝子管理局長は・・・」
「ハイネは己の役目をわきまえておる。君の妨害は決してせん。」
リプリーはまだ未練がましく訴えた。
「ハイネはニコラス・ケンウッドには決して逆らいません。寧ろ、彼の指示には必ず従う。アメリカ・ドームの長官にはケンウッドが適任です!」
「リプリー君・・・」
理事長が声を掛けた。
「ケンウッド博士はまだ若い。もう少しだけ辛抱して彼が長官職にふさわしい年齢になる迄待ってくれないか?」
リプリーがやっと本部の人々の希望に従うことを承知して本会議は閉会した。
彼を始めとする人々が議場から出て行き、ハレンバーグ、シュウ、ハナオカ書記長、それに理事達が残った。ハレンバーグが残った人々を見廻して言った。
「さて、リプリーを長官に据えたことを、ハイネに納得させなければいかん。」
「ハイネは誰か別の人間を希望していたのですか?」
「言うまでも無い、ニコラス・ケンウッドだ。」
「それなら、リプリーの希望でもあるのに・・・」
「ケンウッドはまだ若すぎる。せめて後5年、ドームで修行してもらわないと。ドーマー全体を統治するのだから、それなりに経験を積んでもらいたい。」
「ドーマーを統治するのは遺伝子管理局の仕事ですよ。」
「だがドームの指導権はコロニー人が持っている。それをハイネは理解している。それ故、経験値の高い長官が必要だ。ハイネのサポートがなければドーム行政が出来ない長官は不要だ。ハイネも迷惑だろう? 遺伝子管理局は多忙なのだ。」
その後で、彼は本会議場でアメリカ・ドームの長官就任を打診された。リプリーはそれでは約束が違うと抗議した。
「ドームとしがらみのない新人が長官に選ばれると言う約束だったではありませんか。私は飽くまで繋ぎです。長官職は気が重い。どうか副長官のままで居させて下さい。」
ハレンバーグが困惑して彼に言った。
「新しい人物が長官では、ドーマー達が不安がる。それにハイネ遺伝子管理局長もやり辛かろう。副長官を選ぶので、君は長官職に就いて欲しい。」
リプリーは首を振った。
「私はハイネと上手くやっていく自信がありません。彼が私の長官就任を歓迎するとも思えません。」
「彼と喧嘩でもしたのか?」
「いいえ・・・彼の部下を10名ばかり、リン一派のペットになっていた連中を私の独断で処分してしまいました。ハイネの許可もなく降格したのです。ハイネは執政官の介入が気に入らなかったらしく、それ以来私に口を利いてくれません。」
ハレンバーグ委員長はシュウ副委員長を見た。シュウは肩をすくめただけだった。心の中ではこう呟いていたものの・・・。
この人は本当にハイネを知らないのね。彼はチーズを与えればすぐ機嫌を直すのに。
ハレンバーグは譲歩した。
「では5年・・・5年間だけ長官職を勤めてくれ。その間に適任者を探す。」
「しかし、遺伝子管理局長は・・・」
「ハイネは己の役目をわきまえておる。君の妨害は決してせん。」
リプリーはまだ未練がましく訴えた。
「ハイネはニコラス・ケンウッドには決して逆らいません。寧ろ、彼の指示には必ず従う。アメリカ・ドームの長官にはケンウッドが適任です!」
「リプリー君・・・」
理事長が声を掛けた。
「ケンウッド博士はまだ若い。もう少しだけ辛抱して彼が長官職にふさわしい年齢になる迄待ってくれないか?」
リプリーがやっと本部の人々の希望に従うことを承知して本会議は閉会した。
彼を始めとする人々が議場から出て行き、ハレンバーグ、シュウ、ハナオカ書記長、それに理事達が残った。ハレンバーグが残った人々を見廻して言った。
「さて、リプリーを長官に据えたことを、ハイネに納得させなければいかん。」
「ハイネは誰か別の人間を希望していたのですか?」
「言うまでも無い、ニコラス・ケンウッドだ。」
「それなら、リプリーの希望でもあるのに・・・」
「ケンウッドはまだ若すぎる。せめて後5年、ドームで修行してもらわないと。ドーマー全体を統治するのだから、それなりに経験を積んでもらいたい。」
「ドーマーを統治するのは遺伝子管理局の仕事ですよ。」
「だがドームの指導権はコロニー人が持っている。それをハイネは理解している。それ故、経験値の高い長官が必要だ。ハイネのサポートがなければドーム行政が出来ない長官は不要だ。ハイネも迷惑だろう? 遺伝子管理局は多忙なのだ。」