不思議な爺さん、ローガン・ハイネ・ドーマーは約束通り午後1時過ぎにケンウッドの研究室に再び現れた。いつもはだらだらと午後の作業を開始する助手達が、今日はきびきび働くのが妙に可笑しい。
ハイネは来客用の席に座って研究室の中を見物していた。珍しくはないだろうが、研究者毎に中の様子は異なるので、興味津々だ。助手達も彼の存在が気になって仕様が無いらしい。ある女性助手は早速お茶を淹れて彼に持って行くと、いろいろ話しかけている。彼は愛想良く相手をした。女性には常に優しいのだ・・・。
ケンウッドは咳払いして彼女に勤務中だと言う事実を思い出させた。彼女を追い払って、彼は局長のそばへ行った。
「今朝はリプリー副長官の部屋に居たんだな? わざわざ『お勤め』の立ち会い代理を告げるためだけにここへ君が足を運ぶはずがないからな。」
ケンウッドが推理を告げると、ハイネは微笑した。
「副長官はリン元長官の腰巾着達の新たな情報がないかと私に訊きたかったのです。私はずっと幽閉されていて情報量が限られていたので、内務捜査班に資料を提出させますと答えておきました。」
「内務捜査班チーフの目の前で?」
「ええ。」
ケンウッドがロッシーニ・ドーマーの表向きの身分を知ったことに彼は驚きもしなかった。
「すぐ近くに居たのに、どうして私は彼に気が付かなかったのだろう?」
「彼は普段は助手として白衣姿で研究所内を歩いていますから。」
身なりが違えば人間は雰囲気も変わるものだ。ロッシーニ・ドーマーは中央研究所内で研究者達の中に溶け込んでいるのだ。しかし一旦白衣を脱いでダークスーツに着替えると遺伝子管理局内務捜査班の精鋭に変身する。
ケンウッドは以前からの疑問を思い切ってハイネにぶつけてみた。
「君は現役の頃、どこに潜伏していたんだ?」
ハイネが彼を見つめ、やがて破顔した。
「潜伏だなんて・・・私は薬品庫で薬剤の管理人をしていました。執政官からの要請に従ってロボットに薬剤を計量させたり調合させたりして・・・不適当な薬剤使用がないかチェックしていただけです。」
「君は薬剤師だったのか・・・」
「そんなところです。」
そしてもう1度ケンウッドを真面目な目で見た。
「今日の『お勤め』を受けるジャック・エイデン・ドーマーは不適切な薬物服用の疑いがあるので、私が来ました。」
「薬物?」
ケンウッドはハイネが言った意味をすぐに呑み込めなかった。
「エイデンは貝類のアレルギーだが?」
「それは事実です。しかし・・・」
その時、「お勤め」用更衣室にドーマー達が入室したと言う連絡が入った。ケンウッドの端末にライトが点滅し、執政官の籤引きが始まった。「お勤め」を担当する執政官は、その時刻に手が空いていると登録されている執政官達の中からコンピュータが無作為に選ぶのだ。当たった執政官は素直に検査を行わなければならない。ドーマーを待たせて彼等の勤務時間を必要以上に削ってはいけない。
ケンウッドは今回エイデン・ドーマー自身からの逆指名が入っているので、籤の対象外だが、「お勤め」の指図者だから籤の結果が通知される。
ケンウッドが当選した執政官の氏名を確認している間に、ハイネは席を発って近くの助手に白衣を借りたいと申し出た。長身の彼の為に一番背が高い助手が予備の白衣をロッカーから持って来た。
「『お勤め』の検査室に入れる執政官は1人と決まっているはずですが?」
と助手が心配するので、ハイネは笑った。
「私はドーマーですよ、先生。」
遺伝子管理局長に「先生」と呼ばれて、助手は赤面した。彼はコロニー人だがまだ執政官ではない。ドーマー達からコロニー人として距離を置かれても執政官として尊敬の対象にされたことはなかった。ハイネは彼の白衣に袖を通しながら、
「汚さないように気をつけます。」
と言った。助手は、相手が彼をコロニー人として立ててくれているのだと気が付いた。それでも、彼は自身が相手を尊敬していることを伝えたかったので、応えた。
「貴方に着ていただけて光栄です、局長。」
ハイネは来客用の席に座って研究室の中を見物していた。珍しくはないだろうが、研究者毎に中の様子は異なるので、興味津々だ。助手達も彼の存在が気になって仕様が無いらしい。ある女性助手は早速お茶を淹れて彼に持って行くと、いろいろ話しかけている。彼は愛想良く相手をした。女性には常に優しいのだ・・・。
ケンウッドは咳払いして彼女に勤務中だと言う事実を思い出させた。彼女を追い払って、彼は局長のそばへ行った。
「今朝はリプリー副長官の部屋に居たんだな? わざわざ『お勤め』の立ち会い代理を告げるためだけにここへ君が足を運ぶはずがないからな。」
ケンウッドが推理を告げると、ハイネは微笑した。
「副長官はリン元長官の腰巾着達の新たな情報がないかと私に訊きたかったのです。私はずっと幽閉されていて情報量が限られていたので、内務捜査班に資料を提出させますと答えておきました。」
「内務捜査班チーフの目の前で?」
「ええ。」
ケンウッドがロッシーニ・ドーマーの表向きの身分を知ったことに彼は驚きもしなかった。
「すぐ近くに居たのに、どうして私は彼に気が付かなかったのだろう?」
「彼は普段は助手として白衣姿で研究所内を歩いていますから。」
身なりが違えば人間は雰囲気も変わるものだ。ロッシーニ・ドーマーは中央研究所内で研究者達の中に溶け込んでいるのだ。しかし一旦白衣を脱いでダークスーツに着替えると遺伝子管理局内務捜査班の精鋭に変身する。
ケンウッドは以前からの疑問を思い切ってハイネにぶつけてみた。
「君は現役の頃、どこに潜伏していたんだ?」
ハイネが彼を見つめ、やがて破顔した。
「潜伏だなんて・・・私は薬品庫で薬剤の管理人をしていました。執政官からの要請に従ってロボットに薬剤を計量させたり調合させたりして・・・不適当な薬剤使用がないかチェックしていただけです。」
「君は薬剤師だったのか・・・」
「そんなところです。」
そしてもう1度ケンウッドを真面目な目で見た。
「今日の『お勤め』を受けるジャック・エイデン・ドーマーは不適切な薬物服用の疑いがあるので、私が来ました。」
「薬物?」
ケンウッドはハイネが言った意味をすぐに呑み込めなかった。
「エイデンは貝類のアレルギーだが?」
「それは事実です。しかし・・・」
その時、「お勤め」用更衣室にドーマー達が入室したと言う連絡が入った。ケンウッドの端末にライトが点滅し、執政官の籤引きが始まった。「お勤め」を担当する執政官は、その時刻に手が空いていると登録されている執政官達の中からコンピュータが無作為に選ぶのだ。当たった執政官は素直に検査を行わなければならない。ドーマーを待たせて彼等の勤務時間を必要以上に削ってはいけない。
ケンウッドは今回エイデン・ドーマー自身からの逆指名が入っているので、籤の対象外だが、「お勤め」の指図者だから籤の結果が通知される。
ケンウッドが当選した執政官の氏名を確認している間に、ハイネは席を発って近くの助手に白衣を借りたいと申し出た。長身の彼の為に一番背が高い助手が予備の白衣をロッカーから持って来た。
「『お勤め』の検査室に入れる執政官は1人と決まっているはずですが?」
と助手が心配するので、ハイネは笑った。
「私はドーマーですよ、先生。」
遺伝子管理局長に「先生」と呼ばれて、助手は赤面した。彼はコロニー人だがまだ執政官ではない。ドーマー達からコロニー人として距離を置かれても執政官として尊敬の対象にされたことはなかった。ハイネは彼の白衣に袖を通しながら、
「汚さないように気をつけます。」
と言った。助手は、相手が彼をコロニー人として立ててくれているのだと気が付いた。それでも、彼は自身が相手を尊敬していることを伝えたかったので、応えた。
「貴方に着ていただけて光栄です、局長。」