ドーム維持班総代表のエイブラハム・ワッツ・ドーマーが食堂に入ってきた。彼が地球人類復活委員会の最高幹部達のテーブルに近づいた。するとハイネが立ち上がり、ワッツをハレンバーグ委員長達に紹介した。足腰に問題がある委員長が立ち上がろうとしたので、ワッツが止めて挨拶した。ハイネは幹部達に何か言って、身をかがめると彼等の頬に順番にキスをした。これを見た若い執政官達は驚いたはずだ。ケンウッドもびっくりした。ローガン・ハイネ・ドーマーがコロニー人にキスをしたのだから。ハイネは特に女性のシュウ副委員長には念入りに両頬にキスをした。そして自身のグラスと皿を手に取り、ワッツと共にドーマー幹部が集まっているテーブルへ移動した。ドーマー達から歓声が上がり、全員が立ち上がってハイネを迎えた。
「ドーマーの親方達が局長の復帰を歓迎しているんですね。」
と助手が囁いた。ケンウッドは頷いた。
「うん、きっとあっちが先約だったんだな。ハイネは委員長の誘いも断れないのできっと困っていたのだろう。」
「局長が挨拶のキスを委員長達にしたら、他のテーブルの人達が驚いていましたね。」
「相手がコロニー人だからだろう。ドーマー達はそんなに驚いた様子を見せなかった。」
ケンウッドは、ハイネは自分にはしてくれたことがないな、とふと思った。もっともキスをされたらされたで、何か含むところがあるのか、と疑ってしまうだろう。
ハイネを囲んでドーマー幹部達が賑やかに食事会を始めると、委員長のテーブルにも執政官達がご機嫌伺いに訪れ始めた。今回のリン長官更迭に連座しそうな人々だろう。自分達が処分対象になるのか否か、探りにきているのだ。
助手がドーマーのテーブルに馴染みの顔を発見した。
「輸送班のマリオ・コルレオーネ・ドーマーだ! 僕は引っ越しを5回もしてしまったので、顔馴染みなんですよ。ちょっと挨拶に行ってきても良いですか?」
本心はハイネに近づきたいのだろう。正式な紹介なしに遺伝子管理局長に面会してしまおうと言う魂胆だ。ケンウッドは疲れていたし、面倒臭くなったので、助手に言った。
「コルレオーネから局長に紹介してもらえばどうだ? 私はもう帰るから。ここで解散としよう。」
助手はあっさり承知した。
「わかりました。もし彼を怒らせたら、明日博士が執り成しして下さいね。おやすみなさい。」
ちゃっかり先手を打つと、彼は自身のトレイを持ってドーマー達のテーブルへ歩き去った。
若者の恐いもの知らずに呆れながら、ケンウッドが皿の上を綺麗に片付け終わる頃、ハナオカ書記長がやって来た。
「久し振りだな、ケンウッド。」
幹部の中では一番若いが、それでもハイネよりは年上だ。ケンウッドが立ち上がろうとすると、彼は「そのまま」と言って、さっきまで助手が座っていた席に腰を下ろした。
「君がドーマーの脱走を通報してくれて、やっとリンの処分に取りかかれた。礼を言う。正直なところ、リプリーの訴状の山にはうんざりしていたのだ。」
「副長官が訴状を送っていたなんて、今朝初めて知りました。」
「彼は訴状の他にもメールやら何やら、あの手この手で訴えて来たぞ。しかし似た様な訴えは昔から絶えないし、他のドームからも来る。リンほどではないがな。」
「やはりセイヤーズの遺伝子は問題ですか?」
「大問題だ。君はよく気が付いたな。」
「私ではありません、ハイネが、私に通報しろと勧告したのです。」
「ドーマーからの告訴は後回しにされると警戒したのだな。アイツは結構な策士だろう?」
「そうですね。裏からの操作が巧いです。でも腹黒さがないから、操られる方も気持ちが良い。」
「ドームの中で純粋培養されたからな。」
ハナオカは離れた所にいるドーマー達をチラリと見た。
「あの群れの中では最も若く見えるが、一番の年寄りだ、ハイネは。」
「でもみんなから慕われています。」
「彼の前後20年間はドーマーを採用しなかったからな。一番年齢が近い男でも10歳下だ。彼はみんなの兄貴なんだ。」
でもハイネ本人はダニエル・オライオンだけの兄貴のつもりだ、とケンウッドは知っていた。
「私がここで勤務していた頃は、ハイネは大人のドーマーの中で一番若かった。同世代が1人もいないので、可哀想に独りぼっちで、執政官しか話し相手になれなかったのだ。今、ああして大勢に囲まれている彼を見て、安心した。」
ハナオカ書記長はそう呟いて微笑んだ。
「ドーマーの親方達が局長の復帰を歓迎しているんですね。」
と助手が囁いた。ケンウッドは頷いた。
「うん、きっとあっちが先約だったんだな。ハイネは委員長の誘いも断れないのできっと困っていたのだろう。」
「局長が挨拶のキスを委員長達にしたら、他のテーブルの人達が驚いていましたね。」
「相手がコロニー人だからだろう。ドーマー達はそんなに驚いた様子を見せなかった。」
ケンウッドは、ハイネは自分にはしてくれたことがないな、とふと思った。もっともキスをされたらされたで、何か含むところがあるのか、と疑ってしまうだろう。
ハイネを囲んでドーマー幹部達が賑やかに食事会を始めると、委員長のテーブルにも執政官達がご機嫌伺いに訪れ始めた。今回のリン長官更迭に連座しそうな人々だろう。自分達が処分対象になるのか否か、探りにきているのだ。
助手がドーマーのテーブルに馴染みの顔を発見した。
「輸送班のマリオ・コルレオーネ・ドーマーだ! 僕は引っ越しを5回もしてしまったので、顔馴染みなんですよ。ちょっと挨拶に行ってきても良いですか?」
本心はハイネに近づきたいのだろう。正式な紹介なしに遺伝子管理局長に面会してしまおうと言う魂胆だ。ケンウッドは疲れていたし、面倒臭くなったので、助手に言った。
「コルレオーネから局長に紹介してもらえばどうだ? 私はもう帰るから。ここで解散としよう。」
助手はあっさり承知した。
「わかりました。もし彼を怒らせたら、明日博士が執り成しして下さいね。おやすみなさい。」
ちゃっかり先手を打つと、彼は自身のトレイを持ってドーマー達のテーブルへ歩き去った。
若者の恐いもの知らずに呆れながら、ケンウッドが皿の上を綺麗に片付け終わる頃、ハナオカ書記長がやって来た。
「久し振りだな、ケンウッド。」
幹部の中では一番若いが、それでもハイネよりは年上だ。ケンウッドが立ち上がろうとすると、彼は「そのまま」と言って、さっきまで助手が座っていた席に腰を下ろした。
「君がドーマーの脱走を通報してくれて、やっとリンの処分に取りかかれた。礼を言う。正直なところ、リプリーの訴状の山にはうんざりしていたのだ。」
「副長官が訴状を送っていたなんて、今朝初めて知りました。」
「彼は訴状の他にもメールやら何やら、あの手この手で訴えて来たぞ。しかし似た様な訴えは昔から絶えないし、他のドームからも来る。リンほどではないがな。」
「やはりセイヤーズの遺伝子は問題ですか?」
「大問題だ。君はよく気が付いたな。」
「私ではありません、ハイネが、私に通報しろと勧告したのです。」
「ドーマーからの告訴は後回しにされると警戒したのだな。アイツは結構な策士だろう?」
「そうですね。裏からの操作が巧いです。でも腹黒さがないから、操られる方も気持ちが良い。」
「ドームの中で純粋培養されたからな。」
ハナオカは離れた所にいるドーマー達をチラリと見た。
「あの群れの中では最も若く見えるが、一番の年寄りだ、ハイネは。」
「でもみんなから慕われています。」
「彼の前後20年間はドーマーを採用しなかったからな。一番年齢が近い男でも10歳下だ。彼はみんなの兄貴なんだ。」
でもハイネ本人はダニエル・オライオンだけの兄貴のつもりだ、とケンウッドは知っていた。
「私がここで勤務していた頃は、ハイネは大人のドーマーの中で一番若かった。同世代が1人もいないので、可哀想に独りぼっちで、執政官しか話し相手になれなかったのだ。今、ああして大勢に囲まれている彼を見て、安心した。」
ハナオカ書記長はそう呟いて微笑んだ。