「ところで、ご用は何でしたか?」
とハイネが尋ねた。ケンウッドは不意を突かれた感じで驚いた。
「用事?」
「ここへ来られる時は、貴方は必ず何らかの口実を持って来られるでしょう?」
ああ、ケンウッドは頷いた。大した口実ではなかったのですっかり忘れていた。
「先日の『お勤め』の日取りを4日後にするとロッシーニ・ドーマーに伝言を頼みたい。」
「承知しました。」
「内務捜査班と言うのは、普段は本部にいるのかい?」
「内勤業務をする時は本部にいますよ。」
しかし捜査する時は、とはハイネは言わなかった。仕事に関しては訊かれないことは喋らない、それがハイネの流儀だ。ケンウッドは執政官として自身も調査される場合があるのだな、と思った。だからロッシーニ・ドーマーが普段何処で何をしているか、ハイネは教えてくれない。
ケンウッドはがっかりした気分を誤魔化す為に室内を見廻した。
「この部屋とも君が本部に戻ったら、もうお別れだなぁ。」
ハイネがクスッと笑った。
「部屋を懐かしむなんて、変わったお人だ。」
「そう言う意味ではないよ・・・」
君と気安く会えなくなるのが寂しいのだ、と心の中でケンウッドは呟いた。パーシバルやヤマザキやペルラ・ドーマーと、仕事にかこつけてみんなでお茶を飲みながらわいわい世間話も出来なくなる。
「引っ越しの荷物は輸送班が運んでくれるのだね?」
「そのはずです。」
「君の私物と言えば、そのベッドの下の衣装ケースだけだと思うが、それはアパートから持って来てもらったのかな?」
「これは、秘書達に買って来てもらったのです。私のアパートには3年間ロボット以外誰も入っていないはずです。」
「では、その服は秘書の趣味か・・・」
ハイネが着ているTシャツのデザインが彼のイメージにそぐわないと思ったら、案の定だ。現在着用中のシャツの背中には漢字で「一発屋」と書かれている。これがペルラ・ドーマーの趣味なのか、セルシウス・ドーマーの好みなのかは不明だ。ハイネはただ模様として考えているのだ。
ハイネのアパートに誰も入っていないのだとすると、ダニエル・オライオン元ドーマーが言っていたハイネの個人バーは手つかずで残っているはずだ。自由の身になったら、彼はまた飲み始めるのだろうか。 独り酒は良くないと言いたかったが、きっかけがなかった。
ハイネが立ち上がった。
「今日は疲れたのでそろそろ休もうと思いますが・・・」
「ああ、私も帰るよ。邪魔をしたね。」
ケンウッドも立ち上がり、縫いぐるみの熊に目を向けた。
「その熊もアパートに持って帰るのか?」
するとハイネがとんでもないことを言った。
「お気に召したのなら、差し上げましょう。」
「い、いや、結構・・・」
「ご遠慮なさらずに。」
ハイネは熊を掴み、ケンウッドの腕の中に押しつけた。
「私にはもう不要です。ですが、貴方には必要になるかも知れません。」
「私に?」
ケンウッドは戸惑った。キーラ・セドウィックに監視されることが必要なのか?
ハイネを見ると、老ドーマーは真剣な目で彼を見返した。
「貴方は私の心配ばかりして下さいますが、ご自分の身の安全も考慮されるべきです。」
とハイネが尋ねた。ケンウッドは不意を突かれた感じで驚いた。
「用事?」
「ここへ来られる時は、貴方は必ず何らかの口実を持って来られるでしょう?」
ああ、ケンウッドは頷いた。大した口実ではなかったのですっかり忘れていた。
「先日の『お勤め』の日取りを4日後にするとロッシーニ・ドーマーに伝言を頼みたい。」
「承知しました。」
「内務捜査班と言うのは、普段は本部にいるのかい?」
「内勤業務をする時は本部にいますよ。」
しかし捜査する時は、とはハイネは言わなかった。仕事に関しては訊かれないことは喋らない、それがハイネの流儀だ。ケンウッドは執政官として自身も調査される場合があるのだな、と思った。だからロッシーニ・ドーマーが普段何処で何をしているか、ハイネは教えてくれない。
ケンウッドはがっかりした気分を誤魔化す為に室内を見廻した。
「この部屋とも君が本部に戻ったら、もうお別れだなぁ。」
ハイネがクスッと笑った。
「部屋を懐かしむなんて、変わったお人だ。」
「そう言う意味ではないよ・・・」
君と気安く会えなくなるのが寂しいのだ、と心の中でケンウッドは呟いた。パーシバルやヤマザキやペルラ・ドーマーと、仕事にかこつけてみんなでお茶を飲みながらわいわい世間話も出来なくなる。
「引っ越しの荷物は輸送班が運んでくれるのだね?」
「そのはずです。」
「君の私物と言えば、そのベッドの下の衣装ケースだけだと思うが、それはアパートから持って来てもらったのかな?」
「これは、秘書達に買って来てもらったのです。私のアパートには3年間ロボット以外誰も入っていないはずです。」
「では、その服は秘書の趣味か・・・」
ハイネが着ているTシャツのデザインが彼のイメージにそぐわないと思ったら、案の定だ。現在着用中のシャツの背中には漢字で「一発屋」と書かれている。これがペルラ・ドーマーの趣味なのか、セルシウス・ドーマーの好みなのかは不明だ。ハイネはただ模様として考えているのだ。
ハイネのアパートに誰も入っていないのだとすると、ダニエル・オライオン元ドーマーが言っていたハイネの個人バーは手つかずで残っているはずだ。自由の身になったら、彼はまた飲み始めるのだろうか。 独り酒は良くないと言いたかったが、きっかけがなかった。
ハイネが立ち上がった。
「今日は疲れたのでそろそろ休もうと思いますが・・・」
「ああ、私も帰るよ。邪魔をしたね。」
ケンウッドも立ち上がり、縫いぐるみの熊に目を向けた。
「その熊もアパートに持って帰るのか?」
するとハイネがとんでもないことを言った。
「お気に召したのなら、差し上げましょう。」
「い、いや、結構・・・」
「ご遠慮なさらずに。」
ハイネは熊を掴み、ケンウッドの腕の中に押しつけた。
「私にはもう不要です。ですが、貴方には必要になるかも知れません。」
「私に?」
ケンウッドは戸惑った。キーラ・セドウィックに監視されることが必要なのか?
ハイネを見ると、老ドーマーは真剣な目で彼を見返した。
「貴方は私の心配ばかりして下さいますが、ご自分の身の安全も考慮されるべきです。」