2017年8月6日日曜日

侵略者 9 - 12

 一般食堂は11時に朝食メニューが終わってランチメニューに切り替わったところだった。昼休みには早いので食堂内は閑散としていた。殆どの執政官が中央研究所の食堂に行ってしまったからだ。だから、配膳コーナーの料理は多くが出来たてで誰も手を付けていない状態だった。これは滅多にランチメニュー開始時刻に巡り会えなかったローガン・ハイネ・ドーマーを喜ばせた。彼は出来たてほやほやのラザニアにサーバーをグイッと押し込み、なんとバットの中身半分をごっそりと自身の皿の上に載せた。厨房のモニターでは客の手しか見えない。誰だかわからない手が料理をいきなり半分取ったのを、厨房スタッフは見た。
 司厨長が飛んで来た。

「おい、なんてことをするんだ! 今日はローガン・ハイネが自由の身になったお祝いにそれを作ったんだ。おまえさんが半分食ったらハイネの分がなくなるだろ!!」

 ハイネは全く気にしないでまだグツグツ音を立てているラザニアに粉パセリを振りかけながら言い返した。

「まだ半分残っている。もう半分を焼いて足せば良いじゃないか。」

 彼の声を聞いて司厨長はハッとした。配膳棚の間から客を覗いて、純白の髪のドーマーを見た。彼が仰天している間にハイネは副菜を3皿選んで支払いを済ませ、先に食べ物を取ってテーブルを確保したケンウッドの元へ行った。テーブル周辺にチーズの香りが広がった。ケンウッドはハイネがラザニアを選ぶだろうと予想したので、自身のメインをアクアパッツァにしておいた。少し遅れてパーシバルが2つのメインディッシュを少しずつ取ってやって来た。

「司厨長が泣いているのだが、虐めたんじゃないだろうな、ハイネ?」
「そんな覚えはありません。」

 ケンウッドは笑った。司厨長は再びハイネとチーズ料理を巡って喧嘩が出来たので感激して泣いているのだ。ハイネ本人はチーズの伸びが良くないと文句を付けながらも幸せそうだ。

「それにしても、今朝はリンが集中砲火を浴びていたが、彼のシンパも無事では済まないだろうな。」

とパーシバルが会議の内容に話しを持って行った。

「実を言うと、僕は不安なんだ。ファンクラブもドーマーをペット扱い同然に振る舞っていたからね。糾弾されたら、違うなんて言えないし、証明も出来ない。もし更迭されることになったら、ニコ、君はきっと無事だろうから、ポールを頼むよ。あいつはああ見えて寂しがり屋なんだ。セイヤーズが逃げたから、かなり参っている。」
「何を言っているんだ、ヘンリー。君達はレインや若い連中を何時もリンから守っていたし、相談にも乗っていたじゃないか。それにレインは存外しっかりしている。」

 ハイネはこの会話に入って来なかった。チーズの糸をまとめるのに忙しかったのだ。

「ポールも無事に済むとは思えないんだ。リン一味に懐柔されたドーマー達は異例の出世をしている。ポールも地位こそ上げてもらっていないが幹部候補生としてかなり優遇されている。きっと処分対象にされると思う。」

 ケンウッドはハイネを見た。ハイネは固まり掛けたチーズで挽肉を包み込もうと奮闘中だ。だが、会話を全部聞いて理解している、とケンウッドは確信した。ただ現在は審議中だから何も言わないのだ。