2017年8月8日火曜日

侵略者 9 - 15

 ケンウッドは研究室に行き、助手達に今日は早めに終わっていいよ、と言ってから自身は休憩スペースで長椅子に横になった。助手達が会議の結果を聞きたそうにしていたが、疲れていたし、ネットでドームニュースを見ればわかることだと思った。
 何も考えず何の夢も見ないで爆睡して、目が覚めるとドームの外は夜になろうとしていた。助手達は大方帰っており、2,3人が残って後片付けをしたり日報をコンピュータに入力しているところだった。
 一番若い助手が博士が目覚めたのに気が付いてそばに来た。

「博士、そろそろ部屋を締めようと思っていました。まだ何か用事がありますか?」
「いや、私も食事に行ってそのまま帰る。」

 すると彼はちょっとそわそわした様子で囁いた。

「僕もご一緒させてもらって良いですか? 今日、ローガン・ハイネが幽閉を解かれたんですよね?」

 そう言えばこの若者はまだハイネの実物を見たことがないのだ。ケンウッドについて行けば局長に会えると思っている。ケンウッドは翌朝にでも遺伝子管理局本部に彼を連れて行って遅ればせながらの「着任の挨拶」をさせるつもりだったので、焦って会うこともないだろうと思った。時計を見ると7時を少し過ぎていた。

「中央研究所の食堂へ行こう。多分、本部のお偉方と一緒にハイネが居るよ。」

 爺さん婆さんは結構ですよ、と軽口を叩きながら助手はついて来た。ハイネも爺さんだぞ、とケンウッドは心の中で呟いたが言葉には出さなかった。
 食事時にも関わらず、中央研究所の食堂は静かだった。客は入っているのだが、一般食堂の様な活気がない。
 ローガン・ハイネ遺伝子管理局長はハレンバーグ委員長、シュウ副委員長、ハナオカ書記長と共に4人でテーブルを囲んでいた。しかし3人の本部役員が食事をしているのにハイネ1人だけ軽いつまみと飲み物だけを前に置いていた。テーブルは和やかな雰囲気で、どうやら老人の昔話の席の様だ。
 助手が立ち止まってハイネを見つめているので、ケンウッドは肘を突いて追い立てた。他の人の迷惑になるし、ハイネも嫌だろうと思った。
 テーブルに着くと、助手が体を前のめりにして小声で囁いた。

「本当に彼は80歳なんですか? どう見ても40代ですけど?」
「体調によって50代に見える時もあるさ。だが本当は82だよ。」

 助手は感心することしきりで、見るなと言われてもどうしても最高幹部達のテーブルの方へ視線が行ってしまった。
 食事が半ばまで進んだ頃、食堂の客が増えてきた。それが普段の中央研究所食堂の雰囲気ではない客ばかりだ。
 ケンウッドは、新たに入って来た人々がドーマーであることに気が付いた。ドーム維持班傘下の各部署の責任者達ばかりだ。制服姿だったり、私服に着替えていたりしていたが、紛れもなく職人芸を持つ技術系のドーマーばかりだ。
 彼等が出産管理区の食堂が見えにくい隅っこのテーブルに陣取ると、何故かハイネがそわそわし始めた。