ケンウッドは、ローガン・ハイネ・ドーマーとキーラ・セドウィック博士の言動を思い出してみた。
彼女は、世の中の娘が父親に振る舞う様に振る舞っていた様な気がした。彼の身の回りの世話をして、彼を守る為に小細工を縫いぐるみに仕込み、彼のミスを見つけて叱ってみたり・・・。彼を抱きしめてキスをした時、唇にだけしなかったのは、男女の仲ではなかったからだ。
一方、ハイネは女装した折にキーラに似ていると当時のリン長官に気づかれない様に用心深く行動した。彼女に言いたい放題やりたい放題させているが、怒るでもなく、かと言って無視するでもなく。
互いに父と娘だと知っているに違いない。キーラは母親から地球にいる「囚われの身」の父親の話を聞かされていたのかも知れない。しかし、よもや任務で地球を訪問した時に、同じ事件を捜査する者同士として出会うとは夢にも思わなかっただろう。あまりにも特徴があり過ぎるハイネの姿を見て、彼女は彼が父親だとわかったのだ。
「キーラ博士は警察官として来たのですね?」
「そうです。彼女は1度宇宙へ帰りましたが、元々母親と同じ研究者としての修行もしていたのでしょうな、次は2年後で、産科医として派遣されて来ました。」
最初の出会いの時は、恐らくハイネは何も知らず何も気が付かなかった。マーサ・セドウィックによく似た若い女性がセドウィック姓を名乗っても、全く気が付かなかった。
多分、キーラの方から正体を明かしたのだ。ドーマーの父親は一体どんな反応をしたのか、それはケンウッドには想像がつかなかった。マーカス・ドーマーもそこまでは語らなかった。
「先月、月から地球人類復活委員会の幹部が3人、ここへ来たそうですな。」
とマーカス・ドーマーが尋ねた。ケンウッドが肯定すると、彼は「ふん」と鼻先で笑った。
「きっと連中はさも懐かしげにローガン・ハイネをそばへ呼び寄せたのでしょうよ。」
「ええ、会議の後の夕食で・・・」
「誰と誰でしたっけな?」
「ハレンバーグ委員長、シュウ副委員長、ハナオカ書記長です。」
「ハレンバーグは西の回廊でローガン・ハイネを捕まえた張本人です。私は遺伝子管理局の局員で、あの日内勤でしたから、ハイネの追跡を命じられました。しかし、私が回廊の入り口まで行ったら、もう終わっていました。ハレンバーグが手錠を掛けたハイネを回廊から引きずり出すところでした。ハイネが泣いていたので、私は仲間に見るなと言いました。執政官達がドーマーのリーダーにするつもりで育てた男が泣いているのを見るべきではないと思いました。
シュウは、色仕掛けでハイネに迫った女性執政官の1人です。彼と関係を持ったことは確かです。だが魅力ではマーサ・セドウィックに負けたのでしょう。マーサが彼と深い仲になったと勘付いて上層部に密告した女達の1人ですよ。」
あの会議の後のディナーの席でハイネは幹部達にキスをした。あれは、親愛の情を示したのではなく、ただのパフォーマンスだったのだ。親愛どころか憎しみを抱いていたって不思議でない相手だった。
「ハナオカ書記長は?」
「彼はただの執政官でした。ハイネにも私にも日常顔を合わせて挨拶して世間話をするだけの人でしたよ。無害なコロニー人でした。」
ローガン・ハイネ・ドーマーがコロニー人を嫌う理由が、ケンウッドに明かされた。ケンウッドはマーカス・ドーマーがこんな立ち入った昔話を聞かせてくれた真意を推し量ってみた。ハイネはケンウッドが長官職に就くことを望んでいる。ドーマー達は遺伝子管理局とドーム幹部が上手く折り合っていくことを望んでいる。第15代遺伝子管理局長だったマーカス・ドーマーは、ローガン・ハイネの個人的な歴史を語ることで、ケンウッドに「してはいけないこと」を教えてくれたのではなかろうか。ハイネ個人だけでなく、ドーマー達全員の心を侵略しないでくれと言う、老ドーマーの願いだ。
ドアの外で微かに物音がして、ノックの後、セルシウス・ドーマーとワッツ・ドーマーがケンウッドの秘書を連れて戻って来た。
「そろそろ長官と局長が戻って来られます。」
とワッツ・ドーマーが言った。
「前回の長官就任式は中央研究所で適当にやってしまったので、手順がわからなくて苦労しました。正式な手順を踏んだ就任式はローガン・ハイネも初めてです。握手のタイミングを間違えたし、私もどこで名乗るべきか戸惑ったし、局内の案内も、本来ならもっと簡単にするはずでしたが、リプリー長官はここへ来られたのは9年振りで、局員の業務内容から説明するはめになって時間がかかった様です。思えば、リンはこの役所のことを何も知らないまま長官を務めていたのですね。だから副長官にも何も教えなかった。リプリー長官は不勉強を悔やんでおられました。」
セルシウス・ドーマーがケンウッドを見て微笑んだ。
「貴方は大丈夫ですよね、副長官?」
彼女は、世の中の娘が父親に振る舞う様に振る舞っていた様な気がした。彼の身の回りの世話をして、彼を守る為に小細工を縫いぐるみに仕込み、彼のミスを見つけて叱ってみたり・・・。彼を抱きしめてキスをした時、唇にだけしなかったのは、男女の仲ではなかったからだ。
一方、ハイネは女装した折にキーラに似ていると当時のリン長官に気づかれない様に用心深く行動した。彼女に言いたい放題やりたい放題させているが、怒るでもなく、かと言って無視するでもなく。
互いに父と娘だと知っているに違いない。キーラは母親から地球にいる「囚われの身」の父親の話を聞かされていたのかも知れない。しかし、よもや任務で地球を訪問した時に、同じ事件を捜査する者同士として出会うとは夢にも思わなかっただろう。あまりにも特徴があり過ぎるハイネの姿を見て、彼女は彼が父親だとわかったのだ。
「キーラ博士は警察官として来たのですね?」
「そうです。彼女は1度宇宙へ帰りましたが、元々母親と同じ研究者としての修行もしていたのでしょうな、次は2年後で、産科医として派遣されて来ました。」
最初の出会いの時は、恐らくハイネは何も知らず何も気が付かなかった。マーサ・セドウィックによく似た若い女性がセドウィック姓を名乗っても、全く気が付かなかった。
多分、キーラの方から正体を明かしたのだ。ドーマーの父親は一体どんな反応をしたのか、それはケンウッドには想像がつかなかった。マーカス・ドーマーもそこまでは語らなかった。
「先月、月から地球人類復活委員会の幹部が3人、ここへ来たそうですな。」
とマーカス・ドーマーが尋ねた。ケンウッドが肯定すると、彼は「ふん」と鼻先で笑った。
「きっと連中はさも懐かしげにローガン・ハイネをそばへ呼び寄せたのでしょうよ。」
「ええ、会議の後の夕食で・・・」
「誰と誰でしたっけな?」
「ハレンバーグ委員長、シュウ副委員長、ハナオカ書記長です。」
「ハレンバーグは西の回廊でローガン・ハイネを捕まえた張本人です。私は遺伝子管理局の局員で、あの日内勤でしたから、ハイネの追跡を命じられました。しかし、私が回廊の入り口まで行ったら、もう終わっていました。ハレンバーグが手錠を掛けたハイネを回廊から引きずり出すところでした。ハイネが泣いていたので、私は仲間に見るなと言いました。執政官達がドーマーのリーダーにするつもりで育てた男が泣いているのを見るべきではないと思いました。
シュウは、色仕掛けでハイネに迫った女性執政官の1人です。彼と関係を持ったことは確かです。だが魅力ではマーサ・セドウィックに負けたのでしょう。マーサが彼と深い仲になったと勘付いて上層部に密告した女達の1人ですよ。」
あの会議の後のディナーの席でハイネは幹部達にキスをした。あれは、親愛の情を示したのではなく、ただのパフォーマンスだったのだ。親愛どころか憎しみを抱いていたって不思議でない相手だった。
「ハナオカ書記長は?」
「彼はただの執政官でした。ハイネにも私にも日常顔を合わせて挨拶して世間話をするだけの人でしたよ。無害なコロニー人でした。」
ローガン・ハイネ・ドーマーがコロニー人を嫌う理由が、ケンウッドに明かされた。ケンウッドはマーカス・ドーマーがこんな立ち入った昔話を聞かせてくれた真意を推し量ってみた。ハイネはケンウッドが長官職に就くことを望んでいる。ドーマー達は遺伝子管理局とドーム幹部が上手く折り合っていくことを望んでいる。第15代遺伝子管理局長だったマーカス・ドーマーは、ローガン・ハイネの個人的な歴史を語ることで、ケンウッドに「してはいけないこと」を教えてくれたのではなかろうか。ハイネ個人だけでなく、ドーマー達全員の心を侵略しないでくれと言う、老ドーマーの願いだ。
ドアの外で微かに物音がして、ノックの後、セルシウス・ドーマーとワッツ・ドーマーがケンウッドの秘書を連れて戻って来た。
「そろそろ長官と局長が戻って来られます。」
とワッツ・ドーマーが言った。
「前回の長官就任式は中央研究所で適当にやってしまったので、手順がわからなくて苦労しました。正式な手順を踏んだ就任式はローガン・ハイネも初めてです。握手のタイミングを間違えたし、私もどこで名乗るべきか戸惑ったし、局内の案内も、本来ならもっと簡単にするはずでしたが、リプリー長官はここへ来られたのは9年振りで、局員の業務内容から説明するはめになって時間がかかった様です。思えば、リンはこの役所のことを何も知らないまま長官を務めていたのですね。だから副長官にも何も教えなかった。リプリー長官は不勉強を悔やんでおられました。」
セルシウス・ドーマーがケンウッドを見て微笑んだ。
「貴方は大丈夫ですよね、副長官?」