庭園の森の入り口でケンウッドはパーシバルと出会った。ケンウッドの後ろに助手3名がついていたが、パーシバルの方はレインのファンクラブ10名がいた。
「セイヤーズがいなくなったとは、どう言うことだい?」
ケンウッドが説明を求めると、パーシバルはそっと周囲を見廻した。夜間なので人通りはないが、それでも不夜城の出産管理区の方角は明るい。中央研究所でも灯りが点っている部屋がいくつかあった。居住区のアパートも明るい部屋がいくつかある。
「今朝、直便で来たセイヤーズを遺伝子管理局本部へ連れて行き、それからこの庭園の東屋でポールに引き合わせたんだ。」
とパーシバルが語り始めた。
「僕は2人の邪魔をしないように研究室に帰ったので、後の話はポールの証言だけなのだが、彼等はポールのアパートへ行った。誰の邪魔も入らない場所はそこだけだからね。2人は愛の確認をして、それから眠った・・・」
パーシバルはちょっと言い辛そうに話した。
「ポールはすっかり眠り込んでしまったそうだ。だからセイヤーズが本当に眠ったのかどうかわからないと言っている。ポールは空腹を覚えて目が覚めた。時刻は午後3時過ぎだったそうだ。そして部屋の中にセイヤーズがいないことに気が付いた。」
彼が少し休んだので、ケンウッドは静かに待った。まだ展開がよくわからない。助手達も黙って次の話を待っている。
パーシバルが溜息をついて、話を再開した。
「ポールは彼が旧知の者達に会いに行ったのかと思って1時間ほど部屋で待った。しかしセイヤーズは戻って来ない。それでポールは部屋の外へ出て、クラウスの部屋を訪ねた。クラウスは部屋にいなかった。仕事の日だから当然だよな。4時過ぎだから、遺伝子管理局の局員達は事務仕事を終えてジムで運動をするのが普通の日課だ。ポールはジムへ行ってみたが、そこにもセイヤーズはおらず、食堂にもいなかった。」
「端末に電話を掛けなかったのか?」
「セイヤーズの端末は西ユーラシアの番号だ。そしてポールはその番号を教えてもらっていなかった。互いに情報管理室で傍聴されるのが嫌だったのだろう。
その時点でポールは嫌な想像をしてしまった。セイヤーズが長官の一味に見つかって何処かに監禁されてしまったのではないか、とか、ドームから追い出されてしまったのではないか、とか・・・」
「リン長官は今日は夕方迄医療区に居た。ハイネ局長の見極め健診に終日立ち会ったのだ。彼は直便がセイヤーズであることも、直便が来ること自体も知らなかったはずだ。」
「僕もポールにそう言った。ポールが行き詰まって先輩ドーマーのクリスチャン・ドーソン・ドーマーに相談したのだが、クリスもセイヤーズの行方に見当が付かなかったので、僕のところに2人してやって来たんだ。
ことを大袈裟にしたくないから、取り敢えずファンクラブで手が空いている面子だけが、今探しているところだ。」
ケンウッドはもう1度周囲を見廻した。遺伝子管理局は夜は業務をしないので暗い。クローン観察棟も消灯してしまっている。ハイネも眠っただろう。
「迷子になるはずがない。セイヤーズはここで生まれ育ったドーマーだ。」
「しかし、ドーマーが立ち入るのを禁止されている場所もあるぞ。出産管理区やクローン育成施設とか・・・」
「セイヤーズがそんな場所に入ってどうするって言うんだ? 中を探して見つからないのであれば、外に出たとしか思えないだろう?」
「もう帰ったって言うのか?」
「ゲートに確かめてみたのか?」
ケンウッドに指摘されて、パーシバルは黙り込んだ。するとファンクラブの1人がある規則を思い出した。
「他所のドームから来た人間は、ゲートで端末の番号を申告するはずだ。保安課に明かして番号を教えてもらえばどうだろう?」
「保安課にセイヤーズが行方不明だと教えるのか?」
「直便は西ユーラシアのドーマーだ。アメリカ・ドームで西ユーラシアの局員が行方不明と言うのは拙いだろう? 早く捜し出さないと、大騒ぎになりかねない。」
その時、彼等の方へ近づいて来るスーツ姿の男がいた。暗がりから現れたのは、遺伝子管理局の幹部候補生クリスチャン・ドーソン・ドーマーだった。
パーシバルがセイヤーズは戻ったかと尋ねると、彼は首を振った。
「まだ見つかりません。レインはリン長官のアパートへ行きました。セイヤーズを攫ったのではないかと疑っているんです。」
「それはないだろう。」
パーシバル達ファンクラブ数名が首を振った。
「セイヤーズには例の特技がある。あの男を捕まえるのは一苦労だ。ドームの中で麻痺光線は使えないし・・・」
ダリル・セイヤーズ・ドーマーは他人の筋肉の動きで相手の次の行動を予測出来る。だから彼を捕まえようとするとするりと躱されてしまう。
ケンウッドはもう1度クローン観察棟を見た。そしてパーシバルに提案した。
「クーリッジ保安課長にゲートのモニター再生を見せてもらえる様、頼んでみる。」
「セイヤーズがいなくなったとは、どう言うことだい?」
ケンウッドが説明を求めると、パーシバルはそっと周囲を見廻した。夜間なので人通りはないが、それでも不夜城の出産管理区の方角は明るい。中央研究所でも灯りが点っている部屋がいくつかあった。居住区のアパートも明るい部屋がいくつかある。
「今朝、直便で来たセイヤーズを遺伝子管理局本部へ連れて行き、それからこの庭園の東屋でポールに引き合わせたんだ。」
とパーシバルが語り始めた。
「僕は2人の邪魔をしないように研究室に帰ったので、後の話はポールの証言だけなのだが、彼等はポールのアパートへ行った。誰の邪魔も入らない場所はそこだけだからね。2人は愛の確認をして、それから眠った・・・」
パーシバルはちょっと言い辛そうに話した。
「ポールはすっかり眠り込んでしまったそうだ。だからセイヤーズが本当に眠ったのかどうかわからないと言っている。ポールは空腹を覚えて目が覚めた。時刻は午後3時過ぎだったそうだ。そして部屋の中にセイヤーズがいないことに気が付いた。」
彼が少し休んだので、ケンウッドは静かに待った。まだ展開がよくわからない。助手達も黙って次の話を待っている。
パーシバルが溜息をついて、話を再開した。
「ポールは彼が旧知の者達に会いに行ったのかと思って1時間ほど部屋で待った。しかしセイヤーズは戻って来ない。それでポールは部屋の外へ出て、クラウスの部屋を訪ねた。クラウスは部屋にいなかった。仕事の日だから当然だよな。4時過ぎだから、遺伝子管理局の局員達は事務仕事を終えてジムで運動をするのが普通の日課だ。ポールはジムへ行ってみたが、そこにもセイヤーズはおらず、食堂にもいなかった。」
「端末に電話を掛けなかったのか?」
「セイヤーズの端末は西ユーラシアの番号だ。そしてポールはその番号を教えてもらっていなかった。互いに情報管理室で傍聴されるのが嫌だったのだろう。
その時点でポールは嫌な想像をしてしまった。セイヤーズが長官の一味に見つかって何処かに監禁されてしまったのではないか、とか、ドームから追い出されてしまったのではないか、とか・・・」
「リン長官は今日は夕方迄医療区に居た。ハイネ局長の見極め健診に終日立ち会ったのだ。彼は直便がセイヤーズであることも、直便が来ること自体も知らなかったはずだ。」
「僕もポールにそう言った。ポールが行き詰まって先輩ドーマーのクリスチャン・ドーソン・ドーマーに相談したのだが、クリスもセイヤーズの行方に見当が付かなかったので、僕のところに2人してやって来たんだ。
ことを大袈裟にしたくないから、取り敢えずファンクラブで手が空いている面子だけが、今探しているところだ。」
ケンウッドはもう1度周囲を見廻した。遺伝子管理局は夜は業務をしないので暗い。クローン観察棟も消灯してしまっている。ハイネも眠っただろう。
「迷子になるはずがない。セイヤーズはここで生まれ育ったドーマーだ。」
「しかし、ドーマーが立ち入るのを禁止されている場所もあるぞ。出産管理区やクローン育成施設とか・・・」
「セイヤーズがそんな場所に入ってどうするって言うんだ? 中を探して見つからないのであれば、外に出たとしか思えないだろう?」
「もう帰ったって言うのか?」
「ゲートに確かめてみたのか?」
ケンウッドに指摘されて、パーシバルは黙り込んだ。するとファンクラブの1人がある規則を思い出した。
「他所のドームから来た人間は、ゲートで端末の番号を申告するはずだ。保安課に明かして番号を教えてもらえばどうだろう?」
「保安課にセイヤーズが行方不明だと教えるのか?」
「直便は西ユーラシアのドーマーだ。アメリカ・ドームで西ユーラシアの局員が行方不明と言うのは拙いだろう? 早く捜し出さないと、大騒ぎになりかねない。」
その時、彼等の方へ近づいて来るスーツ姿の男がいた。暗がりから現れたのは、遺伝子管理局の幹部候補生クリスチャン・ドーソン・ドーマーだった。
パーシバルがセイヤーズは戻ったかと尋ねると、彼は首を振った。
「まだ見つかりません。レインはリン長官のアパートへ行きました。セイヤーズを攫ったのではないかと疑っているんです。」
「それはないだろう。」
パーシバル達ファンクラブ数名が首を振った。
「セイヤーズには例の特技がある。あの男を捕まえるのは一苦労だ。ドームの中で麻痺光線は使えないし・・・」
ダリル・セイヤーズ・ドーマーは他人の筋肉の動きで相手の次の行動を予測出来る。だから彼を捕まえようとするとするりと躱されてしまう。
ケンウッドはもう1度クローン観察棟を見た。そしてパーシバルに提案した。
「クーリッジ保安課長にゲートのモニター再生を見せてもらえる様、頼んでみる。」