2018年5月2日水曜日

泥酔者 11 - 6

 副長官執務室に戻ったブラコフは大急ぎで月の本部広報課に連絡を取った。視察団の見学コースは定番なので決まり通りに歩かせれば良いだけだが、2日目の観光が頭を悩ませるのだ。今度のお客様はどんな場所がお望みかと質問を送ると、10分後に広報から返事が来た。今回訪問する富豪達はアンデスのウユニ塩湖を見たいらしい。

「南米ですか? 塩湖の見学は問題ありませんが、往復に時間がかかりますよ。アンデスにはシャトルが着陸出来る空港がありません。地上機対応のみです。」
「では3日目のドーマーとの触れ合いを削れば良いではないですか?」

 広報はしれっと言った。

「その方がドーマーも喜びますよ。」
「つまり、泊りがけで行かせて、ドームに帰ったらそのままシャトルに乗せて宇宙に帰せ、と?」
「その方が貴方も楽でしょう?」
「・・・」

 ブラコフは即答しかねた。確かにドーマーと視察団を接触させるよりは安全だと思えた。しかし、宿の手配を3日で出来るだろうか。
 ヤマザキの言葉が頭に蘇った。

   ドーマーに協力してもらえ

 ブラコフは広報に挨拶した。

「貴重なご意見、有り難うございました。精一杯頑張ります。」
「あまり固く考えずに適当にやれば良いですよ。」

 広報は他人事なのでお気軽に言って通信を終えた。
 ブラコフは椅子に体重を預け、天井を眺めながら考えた。南米の宿泊施設の問題は、遺伝子管理局南米班に協力を頼んでみようか。しかし現役の局員は忙しい。視察団の為に宿を探す暇などない筈だ。
 ブラコフは身を起こし、端末を手に取った。本部にいる遺伝子管理局の職員で南米班出身の男を1人思い出したのだ。しかし彼は力を貸してくれるだろうか。
 呼び出し2回で相手は出てくれた。

「遺伝子管理局局長執務室・・・」
「ネピア・ドーマー、ブラコフだ。」
「副長官?」

 ネピア・ドーマーが意外そうな声を出した。ブラコフは局長に用事がある時は直接ハイネの端末に電話をかけるので、秘書の端末にかけたのが珍しかったのだ。

「ネピア・ドーマー、貴方にちょっと頼みたいことがあるんだ。」

 ブラコフは簡単に宇宙から視察団が来ることを語った。スポンサー様がウユニ塩湖に行きたがっているので、宿の手配をしたいとも言った。

「手頃な宿をご存知なら教えて欲しい。あるいは誰か現地の様子に詳しい者がいれば紹介してくれても良い。視察団が来るのは4日後、宿の手配は3日しか使えない。今は貴方が頼りなんだ。」