2018年5月17日木曜日

泥酔者 15 - 5

 ベルトリッチ委員長との通信を終えたケンウッドは、隣に立っているハイネ局長を見上げた。ハイネは少しぼーっとしている様に見えた。委員長の勢いに呑まれてしまって、何がどうなったのか必死で頭の中で整理しているのだろう。

「君がハリスに救いの手を差し伸べてくれるとは、驚いたよ。」

とケンウッドは声をかけてみた。ハイネが我に返って彼を見た。

「私がハリス博士を救うと仰いましたか?」
「うん・・・」

 ハイネが横を向いた。

「私はあの騒々しい男を静かにさせたかっただけです。ドーマーが怪我をする羽目になったのです、地球の為に働いてもらわなければ困ります。」

 ケンウッドは苦笑した。彼はこれからドーム維持班総代表のロビン・コスビー・ドーマーに緊急の班長会議を開かせなければならない。そして異例ではあるが、長官として今回の顛末を班長達の前で説明して、遺伝子管理局の支局長にコロニー人を任命することを納得させなければならない。この手順を怠れば、ハイネが独断でハリスを支局長に据えたと見做されてしまう。それは断じてあってはならない。遺伝子管理局長をドーマー社会から孤立させては、ドーム行政そのものが崩壊しかねないからだ。局長はドーマーのリーダーであり、ドームとドーマーのパイプ役なのだ。リーダーがドーマーの信を失えば、ドーマー社会はドームの言うことを聞かなくなる。
 ドーマー達を納得させてから、執政官会議でハリスを罷免する。その後、ハリスに支局長の任を与える。ハリスが拒否しても従わせる。従わなければ、金融業者に引き渡すしかない。
 
「ハリスも馬鹿ではない。辺境で死ぬまでタダ働きさせられるより、地球で支局長として名誉のある仕事をこなし、借金返済が終了すればコロニーに帰れる方を選ぶ筈だ。
彼は事務仕事は出来るし、部下をこき使うタイプでもない。5年から7年、働いてもらう間に、君は正当な支局長を探せるのじゃないかね?」

 ハイネ局長が渋々頷いた。彼を慰める為に、ケンウッドは朗報を思いついた。

「悪いことばかりじゃないよ、ハイネ。空港での騒ぎに、ラナ・ゴーン博士が積極的に関わった。ブラコフの後任候補だ。彼女は乱闘の中に分入って、怪我をした保安員を気遣った。お陰で、ガブリエルはすっかり彼女に惹かれてしまって、もう彼女を後任にすると決めてしまったんだ。まだ彼女が地球に来て半日しか経っていないのに。」