2018年5月9日水曜日

泥酔者 14 - 1

 ガブリエル・ブラコフはネピア・ドーマーに直接会って南米旅行の成功の礼を言った。堅物のネピアが、後輩の第2秘書に見られないように横を向いて、嬉しそうに微笑んで照れていた。
 夕食後、ブラコフはケンウッド長官の執務室に行った。副長官後任候補が辞退してしまったことは本人から聞かされた。がっかりしたが、反省もあった。候補が荷物をまとめる為にゲストハウスに引き揚げると、ブラコフはケンウッドに取り敢えず旅行内容の報告を行った。ケンウッドは彼の奮闘努力を高く評価してくれた。

「君の人柄が滲み出るもてなし内容だね。」
「そう仰っていただいて光栄です。ですが・・・後任には心配りが足りなかったようです。」

 どうしたものかなぁとブラコフが溜め息をついた。ケンウッドは慰めになるかと懸念しながらも、ベルトリッチが1人推薦してくれるかも知れないと言った。

「委員長直々に推薦ですか?」
「そんな口ぶりだったが、まだ詳細は何も聞いていない。君から聞いてみるかね?」
「そうですね・・・パーシバル博士は何もご存知なかったのですか?」
「うん。」

 パーシバルがラナ・ゴーン博士の名前を出したことは言わなかった。確証もないのにうっかり口に出してブラコフに無駄な希望を持たせるのは酷だ。
 その代わりにケンウッドは言った。

「優秀な人材を推薦されたら、もしかすると私が副長官に戻って、新しい人が長官になるかも知れない。」
「それは駄目です!!」

 ブラコフの勢いが強かったので、ケンウッドはびっくりした。ブラコフが勢いをつけたまま言った。

「僕は貴方が長官であることを揺るぎない前提として後任を選んでいるんです。他の長官では駄目です!!」
「しかし、私よりふさわしい人物は大勢いるし・・」
「僕が選ぶ後任は、貴方の為の副長官です。他の誰の為でもありません!」

 困ったなぁ、とケンウッドは苦笑いした。

「つまり、私の足らぬところを補ってくれる人材を探しているのだね?」
「そ・・・そんな意味では・・・」

 ブラコフも困って2人は顔を見合わせ、互いに苦笑いした。

「ヴァンサンが戻って来てくれたらなぁ・・・」
「一度辞めた者を雇う委員会ではないしなぁ。全く人間の扱いにおいては融通の利かないところだよ。」

 兎に角、今夜はもう休みなさい、とケンウッドはブラコフを解放してやった。