出産管理区の執政官達は普通中央研究所の食堂で食事を摂る。ガラス壁越しに妊産婦の観察をするからだ。しかしアイダ・サヤカ博士は非番の時は一般食堂にも顔を出す。特に養育棟を卒業したての若いドーマー達が多い時期は、可愛い子供達がしっかり社会活動に参加できているか気になるのだ。
ローガン・ハイネ局長が朝食の為に食堂に行くと、アイダが若者3名とテーブルを囲んでいるのが見えた。若者達は維持班のペーペーで、仕事の失敗で落ち込んでいる1人をアイダと残りの2人が励ましている最中だった。
ハイネが近くのテーブルに席を取り、彼女を見ると偶々彼女も彼の方へ視線を向けた。後で話があると言う意味で彼は手で正面の空席を指して見せた。彼女が小さく頷き、再び若者達に向き直った。
たっぷり15分若者を励ましたりして、やっと彼女が腰を上げた。空になった食器をトレイごと返却してからハイネのテーブルに来た。
朝の挨拶を交わしてから、彼女が席に着いた。
「何のお話でしょう?」
アパートの外で彼が彼女を呼ぶ時は仕事の話がある時だ。彼女も産科の医師として話をする。彼が尋ねた。
「執行部のゴーン博士に関して、最近何か変わったことはありませんでしたか?」
「ラナ・ゴーンに変わったこと?」
アイダが怪訝な表情で彼を見返した。そして彼女が思いつくことを訊き返した。
「それはクロエル・ドーマーに関係していることですか?」
ハイネは部下のことが念頭になかったので、ちょっと面食らった。そしてラナ・ゴーンがクロエル・ドーマーの非公式養母だと思い出した。
「彼は関係ありませんが・・・」
いや、あるのかも知れない。ラナ・ゴーンはブラジルで初めてクロエルを見つけた時からずっとあの子を手元に引き取りたがっていた。彼が成人して、地球人を宇宙に連れ出せないのであれば、コロニー人が地球に降りて来るしかない。
「彼女が地球で働くと言う話は聞いたことがありませんか?」
すると、「ああ・・・」とアイダが合点が行ったと言う顔をした。
「ラナは昔から地球で働きたがっていました。でも夫君と子供達がいましたから我慢していたのです。彼女は私と違って子供を置いて遠くへ働きに出るなんて出来っこなかったのです。子供が一番、それがあの人の信条です。でも今は事情が変わりました。子供達が成長して独立したのです。彼女の家には彼女と夫君しかいません。」
「それで彼女は地球に降りて来ることが可能になったと?」
「ええ・・・」
アイダは複雑な表情をした。妻が地球で働くとなると夫は宇宙で単身生活になる。夫が地球勤務を希望すれば委員会は同じ職場を考慮してくれるが、ラナ・ゴーンの夫は地球人類復活委員会とは無関係の職に就いている人だった。ゴーンが地球勤務を切望すると言うことは、夫との生活が上手く行っていないと言う意味だ。
しかし、ドーマーのハイネはそこまで考えが及ばなかった。
「もし彼女が貴女の上司になるとしたら、貴女は歓迎しますか?」
この質問にアイダはびっくりした。
「彼女が私の上司?」
出産管理区長の上司は長官と副長官だけだ。そして一瞬彼女はラナ・ゴーンがドーム長官になるのかと尋ねかけて、思い留まった。現在アメリカ・ドームが抱えている問題に考えが及んだのだ。
「彼女を副長官に迎えたいと仰っているのね?」
ハイネは慎重に答えた。
「ケンウッド長官が考えついた一つの可能性の話です。」
アイダ・サヤカがにっこりとした。
「いいわ、私は賛成です。余り時間がないのでしょう? 彼女と執行部に連絡を取ってみます。キーラにも援護射撃してもらいます。」
その時、遺伝子管理局内務捜査班チーフ、ビル・フォーリー・ドーマーが2人のテーブルに近づいてきた。
「おはようございます、局長、出産管理区長。 ちょっとよろしいでしょうか?」
ローガン・ハイネ局長が朝食の為に食堂に行くと、アイダが若者3名とテーブルを囲んでいるのが見えた。若者達は維持班のペーペーで、仕事の失敗で落ち込んでいる1人をアイダと残りの2人が励ましている最中だった。
ハイネが近くのテーブルに席を取り、彼女を見ると偶々彼女も彼の方へ視線を向けた。後で話があると言う意味で彼は手で正面の空席を指して見せた。彼女が小さく頷き、再び若者達に向き直った。
たっぷり15分若者を励ましたりして、やっと彼女が腰を上げた。空になった食器をトレイごと返却してからハイネのテーブルに来た。
朝の挨拶を交わしてから、彼女が席に着いた。
「何のお話でしょう?」
アパートの外で彼が彼女を呼ぶ時は仕事の話がある時だ。彼女も産科の医師として話をする。彼が尋ねた。
「執行部のゴーン博士に関して、最近何か変わったことはありませんでしたか?」
「ラナ・ゴーンに変わったこと?」
アイダが怪訝な表情で彼を見返した。そして彼女が思いつくことを訊き返した。
「それはクロエル・ドーマーに関係していることですか?」
ハイネは部下のことが念頭になかったので、ちょっと面食らった。そしてラナ・ゴーンがクロエル・ドーマーの非公式養母だと思い出した。
「彼は関係ありませんが・・・」
いや、あるのかも知れない。ラナ・ゴーンはブラジルで初めてクロエルを見つけた時からずっとあの子を手元に引き取りたがっていた。彼が成人して、地球人を宇宙に連れ出せないのであれば、コロニー人が地球に降りて来るしかない。
「彼女が地球で働くと言う話は聞いたことがありませんか?」
すると、「ああ・・・」とアイダが合点が行ったと言う顔をした。
「ラナは昔から地球で働きたがっていました。でも夫君と子供達がいましたから我慢していたのです。彼女は私と違って子供を置いて遠くへ働きに出るなんて出来っこなかったのです。子供が一番、それがあの人の信条です。でも今は事情が変わりました。子供達が成長して独立したのです。彼女の家には彼女と夫君しかいません。」
「それで彼女は地球に降りて来ることが可能になったと?」
「ええ・・・」
アイダは複雑な表情をした。妻が地球で働くとなると夫は宇宙で単身生活になる。夫が地球勤務を希望すれば委員会は同じ職場を考慮してくれるが、ラナ・ゴーンの夫は地球人類復活委員会とは無関係の職に就いている人だった。ゴーンが地球勤務を切望すると言うことは、夫との生活が上手く行っていないと言う意味だ。
しかし、ドーマーのハイネはそこまで考えが及ばなかった。
「もし彼女が貴女の上司になるとしたら、貴女は歓迎しますか?」
この質問にアイダはびっくりした。
「彼女が私の上司?」
出産管理区長の上司は長官と副長官だけだ。そして一瞬彼女はラナ・ゴーンがドーム長官になるのかと尋ねかけて、思い留まった。現在アメリカ・ドームが抱えている問題に考えが及んだのだ。
「彼女を副長官に迎えたいと仰っているのね?」
ハイネは慎重に答えた。
「ケンウッド長官が考えついた一つの可能性の話です。」
アイダ・サヤカがにっこりとした。
「いいわ、私は賛成です。余り時間がないのでしょう? 彼女と執行部に連絡を取ってみます。キーラにも援護射撃してもらいます。」
その時、遺伝子管理局内務捜査班チーフ、ビル・フォーリー・ドーマーが2人のテーブルに近づいてきた。
「おはようございます、局長、出産管理区長。 ちょっとよろしいでしょうか?」