2018年5月6日日曜日

泥酔者 13 - 5

 ケンウッドとの通話を終えたヘンリー・パーシバルは彼の膝の上に頭を載せて目を閉じているドーマーの純白の髪を撫でた。懐かしい重たさだ。彼が退官し、子供が出来て宇宙空間に出られなくなって都合13年が過ぎた。彼も友人もドーマー達もそれ相応に歳をとったのに、このドーマーは殆ど容姿が変わらない。若さを保つと言うのも限度がある。人間は永遠に若くはいられない。待機型遺伝子を保つ人間がある日突然老化が始まって急速に歳を取り死に至った症例を、パーシバルは聞いたことがある。コロニーで起きた事件だが、有名な話で、ドーマー達でも知っているのだ。当然ハイネも知っているだろう。

 どんな気持ちで君はその話を聞いたんだい?

 ローガン・ハイネは寝入ってしまった。昨夜は病棟のベッドで熟睡出来なかったのかも知れない。パーシバル自身も立木にもたれかかってうとうとしかけたその時、また端末が震えた。ポケットから出すと、アンリ・クロワゼット大尉からだった。

「パーシバル・・・」
「博士、直ぐにジムに来られるか?」

 階級の高い軍人特有の横柄な口調でクロワゼットが尋ねた。確かまだ40代にもなっていない若造の筈だが? コロニー人の軍人の最盛期は50歳迄だ。クロワゼットは一番働ける年齢で現場を引退して内勤になっている。特殊部隊の精鋭だった男が広報部で働いているのは、当人にとっても本意ではあるまい。病気で退官を余儀なくされたパーシバルはクロワゼットの気持ちを理解出来るが、だからと言って見下されるのは気分が悪い。

「どうかされましたか?」
「ちょっと問題発生だ。」

 パーシバルは膝の上のハイネを見た。

「ドーマー絡みですか?」
「そんなところだ。」

 ドーマーと言う単語が聞こえたので、ハイネが目を開いた。パーシバルは彼が目覚めたので、相手に「直ぐ行きます」と告げて通話を終えた。ハイネが自発的に身を起こした。

「何かありましたか?」
「わからないが、ジムで客が呼んでいるので行くよ。」
「では私もご一緒します。」

 ドーマー絡みなら局長が一緒の方が良いに決まっている。2人は立ち上がって歩き始めた。