昼食会が自然な形でおひらきになった。午後の仕事がある者は職場に戻って行き、お昼で上がった者達は休憩の後で運動施設に向かう。ケンウッドは副長官が留守なので午後も仕事が詰まっている。仲間に挨拶して食堂から出ると執務室に戻った。机に戻って暫くすると、副長官の秘書から電話が掛かってきた。副長官後任候補が辞退を表明したと言う。
秘書は困惑していた。肝心のブラコフが留守の時に候補者が辞めると言い出したのだ。
「副長官と連絡が取れませんので・・・」
通信は繋がるが、大事な視察団接待の仕事をしているブラコフの心を乱したくない秘書は途方に暮れていた。ケンウッドは仕方なく候補者を長官執務室に呼んだ。
辞退の理由は明白だった。副長官の仕事が余りに多岐にわたり、忙しくて目が回ると言うのだ。それに研究する暇がない。おまけに視察団の接待など重要な臨時業務をこなす自信がないと候補者は言った。
ケンウッドは「仕方がないね」と辞意を受諾した。
「しかし、留守中に君がいなくなっては副長官も気の毒だ。貴方には申し訳ないが、約束の期間だけは勤めてくれませんか?」
「わかりました。期間中は精一杯努力します。」
相手もそれなりに誠意を見せてケンウッドに礼をした。彼が外へ出て行き、ドアが閉まるとケンウッドは溜め息をついた。ブラコフ離任迄後1ヶ月だ。アメリカ・ドームは一体どうなるのだ? 保安課長の希望者はあんなに大勢応募してきたのに、副長官と言う地位と職務は人気がないのか? いや、副長官も当初は大勢応募があったのだ。ブラコフが篩にかけて落としてしまった。
どうするつもりだ、ガブリエル?
書類の山を眺めていると、長官秘書2人が心配そうにこちらを見ていることに気が付いた。ケンウッドは試しに彼等に声をかけてみた。
「君達、副長官になる気はないかね?」
「とんでもない!」
2人は慌てて首を振った。秘書の仕事で手一杯なのだ。副長官の大変さは彼等も目の当たりに見てきた。だろうな、とケンウッドは手を振って、忘れてくれ、と言った。それからふと視察団が来ると連絡してきた時、ベルトリッチ委員長が副長官後任候補について何か言いかけたことを思い出した。彼女は何を言おうとしたのだろう。
ヘンリーなら何か知っているかも知れない。
ケンウッドは端末を取り上げ、パーシバルの端末に電話をかけてみた。パーシバルは午後は暇だった。神経科の診察はないし、客は軍の広報しかいない。その広報は昼食後は運動施設に行っていた。
パーシバルが電話に出た。
「何か用事かい、ニコ?」
「大した要件ではない・・・先日ベルトリッチ委員長がガブリエルの後任について何か言いかけたんだが、君は何か聞いていないか?」
「ガブの後任?」
パーシバルはお気楽な口調で言った。
「ああ・・・ゴーン博士のことかな? 副長官なのか執政官なのか知らんが、アメリカ・ドームで勤務なさりたいと仰っているそうだ。クロエルちゃんの・・・あっ! まだクロエルちゃんに会っていない!!」
「クロエル・ドーマーはカリブ海です。明後日にならないと戻って来ませんよ。」
ハイネの声が聞こえた。パーシバルはハイネと一緒にいるのだ。ケンウッドは時計を見た。ハイネの昼寝の時間だ。恐らくパーシバルは芝生かどこかで膝枕を提供させられているのだろう。
ケンウッドは、ゴーン博士とはアイダ・サヤカの友人の執行部役員だったな、とぼんやり思った。副長官になるにはベテラン過ぎないか? 長官の方がふさわしい人材に思えるが。
「ベルトリッチはゴーン博士を推薦しているのか?」
「推薦しているかどうか知らない。彼女がクロエル・ドーマーの側で働きたいと言っているんだよ。」
秘書は困惑していた。肝心のブラコフが留守の時に候補者が辞めると言い出したのだ。
「副長官と連絡が取れませんので・・・」
通信は繋がるが、大事な視察団接待の仕事をしているブラコフの心を乱したくない秘書は途方に暮れていた。ケンウッドは仕方なく候補者を長官執務室に呼んだ。
辞退の理由は明白だった。副長官の仕事が余りに多岐にわたり、忙しくて目が回ると言うのだ。それに研究する暇がない。おまけに視察団の接待など重要な臨時業務をこなす自信がないと候補者は言った。
ケンウッドは「仕方がないね」と辞意を受諾した。
「しかし、留守中に君がいなくなっては副長官も気の毒だ。貴方には申し訳ないが、約束の期間だけは勤めてくれませんか?」
「わかりました。期間中は精一杯努力します。」
相手もそれなりに誠意を見せてケンウッドに礼をした。彼が外へ出て行き、ドアが閉まるとケンウッドは溜め息をついた。ブラコフ離任迄後1ヶ月だ。アメリカ・ドームは一体どうなるのだ? 保安課長の希望者はあんなに大勢応募してきたのに、副長官と言う地位と職務は人気がないのか? いや、副長官も当初は大勢応募があったのだ。ブラコフが篩にかけて落としてしまった。
どうするつもりだ、ガブリエル?
書類の山を眺めていると、長官秘書2人が心配そうにこちらを見ていることに気が付いた。ケンウッドは試しに彼等に声をかけてみた。
「君達、副長官になる気はないかね?」
「とんでもない!」
2人は慌てて首を振った。秘書の仕事で手一杯なのだ。副長官の大変さは彼等も目の当たりに見てきた。だろうな、とケンウッドは手を振って、忘れてくれ、と言った。それからふと視察団が来ると連絡してきた時、ベルトリッチ委員長が副長官後任候補について何か言いかけたことを思い出した。彼女は何を言おうとしたのだろう。
ヘンリーなら何か知っているかも知れない。
ケンウッドは端末を取り上げ、パーシバルの端末に電話をかけてみた。パーシバルは午後は暇だった。神経科の診察はないし、客は軍の広報しかいない。その広報は昼食後は運動施設に行っていた。
パーシバルが電話に出た。
「何か用事かい、ニコ?」
「大した要件ではない・・・先日ベルトリッチ委員長がガブリエルの後任について何か言いかけたんだが、君は何か聞いていないか?」
「ガブの後任?」
パーシバルはお気楽な口調で言った。
「ああ・・・ゴーン博士のことかな? 副長官なのか執政官なのか知らんが、アメリカ・ドームで勤務なさりたいと仰っているそうだ。クロエルちゃんの・・・あっ! まだクロエルちゃんに会っていない!!」
「クロエル・ドーマーはカリブ海です。明後日にならないと戻って来ませんよ。」
ハイネの声が聞こえた。パーシバルはハイネと一緒にいるのだ。ケンウッドは時計を見た。ハイネの昼寝の時間だ。恐らくパーシバルは芝生かどこかで膝枕を提供させられているのだろう。
ケンウッドは、ゴーン博士とはアイダ・サヤカの友人の執行部役員だったな、とぼんやり思った。副長官になるにはベテラン過ぎないか? 長官の方がふさわしい人材に思えるが。
「ベルトリッチはゴーン博士を推薦しているのか?」
「推薦しているかどうか知らない。彼女がクロエル・ドーマーの側で働きたいと言っているんだよ。」