2018年5月15日火曜日

泥酔者 15 - 1

 ロバータ・ベルトリッチ委員長が通信を入れて来た。誰かが・・・レイモンド・ハリスの存在を疎ましく思っている執政官の誰かが空港での事件を本部に通報したのだ。
 ケンウッドは叱責されることを覚悟して、長官からの通報を故意に遅らせたことを詫びた。

「警察の判断を待ってから報告するつもりでした。今回の事案はレイモンド・ハリス博士個人の問題です。地球人保護法違反や乱闘はそこから派生したに過ぎません。執行部の皆さんのお時間を取らせる様な問題ではありません。私の指導が足りなかったのです。」
「起きたことにうだうだ文句を言うつもりはありませんよ、ケンウッド博士。」

 ベルトリッチが溜め息をついた。

「レイモンド・ハリスの身元調査が不十分だった人事部にも落ち度はありますからね。」
「今日は午前中ハリスを伴って警察に行って来ました。彼は深く反省していましたが、借金返済の目処が立たないのです。2年分の給料を全額注ぎ込んでも利子が残るのです。」
「それ・・・博打でそんなに?」
「博打の借金は返済したのですが、その返済金を借りた高利貸しの方の借金がどんどん膨らんで・・・」
「泥沼ですね。恐らく胴元とその高利貸しは繋がっていますよ。」
「私もそう思います。しかし法的にはハリスに返済義務があるのです。」

 ケンウッドは画面の中で委員長が天井を見上げて考え込んでいるのを眺めた。星空に答えが書いてあるのであれば、彼も見上げて見たかった。
 その時、ケンウッドの後ろで声がした。

「そのコロニー人の取り立て屋は、地球人保護法違反で捕まっているのですか?」

 ケンウッドは委員長が通信して来る直前迄遺伝子管理局長とある事案に関して話し合いをしていたことを思い出した。彼は少し後ろに顔を向けて答えた。

「保安員を殴った男だけ拘置されている。彼の雇主が保釈金を払ってくれれば出られるが、地球から出るには裁判を受けてからだ。有罪判決が出れば、禁固1年か、社会奉仕半年だな。無罪にはならない。保安員が訴えを取り下げない限りは・・・」

 航空班は維持班支配下の輸送班の一部だが、航空機や空港施設などのハード面だけが輸送班の管轄で、業務は遺伝子管理局の指図を受ける。保安員がコロニー人を訴えるか訴えないか、それは航空班の指揮権を持つ局長第2秘書の考え次第だ。ハイネ局長は秘書にどうしろとは言わないだろう。しかし彼の考えを秘書は無視しない。
 ハイネが次の質問をして来た。

「捕まっている男は、彼の雇主にとって保釈金を払う価値がある人物なのですか?」
「彼の価値と言うより、彼を自由にすることが雇主に意味があるかないかだろうな。」

 ベルトリッチが画面の中でハイネを見ようと体を動かした。

「ローガン・ハイネがそこにいるのですね?」

 それでケンウッドはハイネに来いと手を振った。ハイネ局長が椅子から立ち上がり、カメラの前にやって来た。