2018年5月7日月曜日

泥酔者 13 - 7

 地球人の重力に耐えられる筋肉に憧れを抱くコロニー人は多い。特に運動している人間は尚更だ。クロワゼット大尉は特殊部隊で人工重力装置の整った訓練施設で鍛えた体を持っている。恐らく地球の重力より強いGにも耐えられるだろう。大尉は本物の地球人の筋肉をその手で確かめてみたいに違いない。
 パーシバルはちょっと考えてから、古い馴染みの保安課のドーマーに電話を掛けてみた。幸いそのドーマーはまだ現役で、パーシバルからの電話だと知ると大喜びした。パーシバルは挨拶してから急いで質問しなければならなかった。さもなくば長い近況報告を聞かされるところだった。

「午前中にコロニー人の軍人が保安課を見学していた筈だが、何か変わったことはなかったかね?」
「変わったことですか? どんな?」

 パーシバルはちょっと躊躇ってから思い切って言った。

「無駄に君達の体に手を触れたとか・・・」

 保安課員は少し沈黙してから、低い声で言った。

「私は相手をしなかったのでわかりませんが、若い連中達が組み合った後で何かこそこそ話し合っていましたね。聞いてみましょうか?」
「うん・・・保安課長には内緒にしてくれないかな。上層部に知られたらややこしくなりそうだ。僕のこの番号に頼む。」

 パーシバルが通話を終えると、横にいたハイネが肩をすくめた。

「触るだけでしたら、誰も被害届けを出したりしません。」
「ベルト上だけなら問題ないからね。しかし、言葉は悪いがドーマーは地球人類復活委員会の大切な財産だ。出資者だからと言って無闇に人権を無視した行動をして欲しくない。」

 するとハイネはパーシバルが予期しなかったことを言って驚かせた。

「貴方が出資者を怒らせて新しい仕事を失う可能性もあるのですよ。あまりこの件に深入りしない方が良いでしょう。」

 パーシバルはハイネを振り返った。純粋培養されたドーマーがそんな生臭い社会の裏側の話をするなんて予想外だった。しかし、ローガン・ハイネ・ドーマーは1世紀近く生きてきたのだ。人間の汚い面を十分知っていた。それに彼自身が裏工作で仲間を守ってきた実績を持っているのだ。

「ドーマーは自分達で身を守れます。貴方は委員会の規則を客に守らせるだけで良いのです。無礼者の対処は我々でします。」
「しかし・・・」
「彼は明日になれば宇宙へ去ります。我々は何も出来ない代わりに、これ以上の迷惑を被ることもありません。しかし貴方は彼と同じ世界に生きておられる。身を守らねばならないのは貴方の方です。」

 ハイネはグッと顔を寄せてきた。

「貴方に何かあれば、キーラと子供達が悲しみます。」

 パーシバルは義父を見つめた。

「クロワゼットがこれっきりで悪さを止めるとは思えないな。彼は仕事で何度でもやって来る。その度に悪さをして、エスカレートしていくぞ。」
「抵抗しないなんて言っていませんよ。」

 ハイネは薄笑いを浮かべた。