2018年5月13日日曜日

泥酔者 14 - 6

 レイモンド・ハリスは待合フロアのベンチで大声で何やら喚いていた。ケンウッドが近づいて名を呼んでも振り返らなかった。
 ケンウッドは空港職員を振り返った。

「いつからここでこうしているのです?」
「半時間前からです。シティから戻って来られたようです。」

そして警察官がこう言った。

「ドームに関係ないコロニー人にもよくある事ですが、地球のお酒がお気に召して飲みすぎる人がいるのです。シティの店は日が沈む迄酒類の提供を禁止している筈ですが、コロニー人目当てで闇で飲ませる店があるので・・・困ったものです。」

 ケンウッドは溜め息をついた。

「この人はコロニーでも酒癖が悪かったと聞いています。ドームから応援を呼びましょう。」

 大人しくさせるには麻痺光線銃が必要だろうとケンウッドは考えた。地球人の目の前で使用したくないが、もしハリスが暴れでもしたら民間人に被害が出ないとも限らない。それにドーム事業の秘密を口外されては困る。絶対に困る。
 ハリスはコロニー時代の職場の人間達の悪口を言うのに忙しく、まだ秘密を喋るところまで行っていないようだ。しかし油断出来ない。ケンウッドは保安課に電話をかけてみた。ベックマンが出て、ドーマーの保安課員は外に出せないので彼自身が出向くと応えた。

「光線銃を使用することになると思う。麻酔注射を打てればそっちの方が良いのだが。」

 ケンウッドが考えを告げると、ベックマンは善処を心掛けますと言って通話を終えた。
 ケンウッドは警察官に尋ねてみた。

「彼は単独だったのだろうか? 誰か連れがいる気配はなかったですか?」
「お一人の様子ですが・・・何方かまだいらっしゃるのですか?」
「いや・・・私が受理した届出は彼1人だけです。連れがいないのでしたら、彼は闇で飲ませる店をどうやって見つけたのでしょうか?」
「それは僕も知りたいです。」

 ハリスがベンチからずり落ちた。そのまま床の上に座り込んで、ブツブツ独り言を始めた。そのまま寝てくれた方が安心だな、とケンウッドが思った時、聞きなれない声がした。

「おヤァ? ハリス博士じゃないですか?」

 ケンウッドには懐かしい火星第1コロニーの訛りだ。見ると2人連れの男が立っていた。いつの間にかシャトルが到着しており、コロニーからの客がぞろぞろと入国審査ゲートから出てくるところだ。2人連れは到着したての客ではなく、出迎えに来た方か、折り返すシャトルに乗る予定の人間の様だ。
 ケンウッドの頭の中で警報が鳴った。

 コイツらは取り立て屋だ!