2018年5月5日土曜日

泥酔者 12 - 4

 パーシバルをハイネに会わせる前にケンウッドは確認しなければならないことがあった。

「ヘンリー、最近キーラはサヤカと連絡を取り合っているか?」
「なんだ、それ?」

 パーシバルが怪訝そうな顔をした。

「2人はサヤカが重力休暇で1ヶ月に一度宇宙へ戻って来る度に会ってお茶しているよ。僕や子供達がヤキモチ焼くぐらいに仲良しだからな。どうしてそんなことを聞くんだ?」
「最近サヤカの生活に変化があったと聞かなかったか?」
「はぁ?」

 アイダ・サヤカは例の辞表騒ぎの後、まだ重力休暇を取っていない。彼女の人生に起きた重大な秘密を通信と言う軽々しい手段で親友に報告する軽はずみなことはしていないのだ。ケンウッドは安心した。
 彼は回廊に誰もいないことを確認してから、パーシバルに囁いた。

「これから話すことは絶対に秘密にして欲しい。キーラに教えても構わないが、キーラ以外には話さないでくれ。サヤカはキーラには直接会って報告するつもりで、まだ彼女に言っていないのだと思う。」
「何なんだ?」

 パーシバルが不安と好奇心の入り混じった顔で彼を見つめた。
 ケンウッドは彼との距離をさらに縮めてから、さらに低い声で告げた。

「アイダ・サヤカとローガン・ハイネは結婚した。」

 ヘンリー・パーシバルがあんぐりと口を開けた。そしてぽかんとケンウッドを見つめた。数秒間その姿で固まってから、やがて彼は口を動かした。

「今・・・何て言った?」

 ケンウッドは苦笑した。1回しか言わないつもりだったが、仕方なく囁いた。

「サヤカとハイネは結婚したんだ。ベルトリッチと最高幹部数名だけが知っている地球人類復活委員会の最高機密事項の一つだ。2人を引き離すのは気の毒だが、公になると他の執政官達に示しがつかなくなるので、秘密の夫婦でいるようにと言うお達しだ。だから彼等は今まで通りの生活をしている。」
「それじゃ結婚の意味がないだろ?」

 ケンウッドはパーシバルがまだうろたえているのを宥めるように言った。

「私は彼女の部屋を女性専用棟から妻帯者用に移してもらった。ハイネは彼女の部屋に忍んで訪問するのを楽しんでいる。」
「・・・参ったな・・・」

 パーシバルは額の汗を手の甲で拭った。

「サヤカがハイネを気に入っていることは察していたが・・・」
「彼女は片思いが辛くなって辞表を出したんだ。私達は理由がわからなくて驚いたのだが、一番ショックを受けたのがハイネでね・・・私の所に来て、彼女と結婚させてくれなければドームの外に出ると脅迫までした。」
「つまり、ハイネも彼女を憎からず思っていたんだな?」
「誰にも気づかれずに気持ちを秘めていたんだ。マーサ・セドウィックの時の様に委員会に彼女を取り上げられることを恐れていたんだよ。ずっと秘密にしていたから、彼女自身にも気づかれなかったんだ。彼女の辞表で慌てふためいたハイネが彼女にいきなり求婚したものだから、今度は彼女が狼狽た。それで私は彼女を連れて執行部幹部に直訴した。」

 パーシバルがやっと落ち着きを取り戻し、ニヤリと笑った。

「委員長がベルトリッチで良かったじゃないか! ハレンバーグやハナオカだったら、サヤカは更迭されていた。」
「うん。それで、まぁ・・・何だ、彼女はキーラにとって年下の継母になる訳だ。」
「いやぁ・・・僕にとっても年下の義母じゃないか・・・呼べないぞ、おっかさんだなんて。」
 
 ケンウッドとパーシバルはやっと声を立てて笑った。