2018年5月8日火曜日

泥酔者 13 - 10

 翌日の午後、南米から出資者様御一行がガブリエル・ブラコフ副長官の引率でドームに戻ってきた。彼等は荷物を空港ロビーで帰りのシャトルに積み込んでもらう為に手続きを済ませてから、消毒を受けて一旦ドームの中に入った。
 ケンウッド長官はハイネ遺伝子管理局長を連れて彼等一人一人と挨拶した。どの人も旅行に満足していた。素晴らしい風景と美味しい食事と温かな現地の住人を褒め称えた。勿論ブラコフの気配りにも感謝した。そして最後に憧れの白いドーマーに会えて喜んだ。
 クロワゼット大尉は精神安定剤が体から抜けたので、しっかり歩いていたが、機嫌は良くなさそうだった。しかし富豪達は彼のことは気にならない様子で、ケンウッド長官にアメリカ・ドームのもてなしを感謝し、出資額の増額を約束してくれた。
 ヘンリー・パーシバルは彼等が忘れ物をしていないかチェックに忙しかった。忘れ物をしても取りに戻ってくるのは難しい。地球に降りるには1ヶ月以上の間を空けねばならない。どんな富豪でも曲げられない法律はあるのだ。
 ポール・レイン・ドーマーはパーシバルの荷物を運ぶ手伝いを申し入れ、局長に許可された。

「この次はキーラ博士とご一緒に来てくださいよ。」

 レインは無理なお願いだとわかっていたが、そう言わずにおられなかった。美しいセドウィック博士は憧れだったし、アイダ博士とセットで「母」なのだ。
 パーシバルはにっこり笑って彼の坊主頭をクリクリと撫でてやった。

「君達を月に招待出来ればなぁ・・・娘の1人を君の嫁さんにやっても良いんだ。」
「博士、そんな冗談は止して下さいよ。俺はダリルを見つける迄は誰とも結婚しませんから。」
「なに言ってるんだか・・・僕の娘達はまだ11歳になったばかりだ。適齢期になる迄ダリルを見つけられないって言うのか?」

 パーシバル流の励ましにレインは苦笑した。

「俺はロリコンじゃありませんから・・・でもキーラ博士の娘さんですから、きっと美人でしょうね。コロニー人なのが残念です。」

 娘達は4分の1地球人だよ、とパーシバルは心の中で呟いた。子供達が成人する頃に地球に女性が誕生していれば良いのだが。
 レインは時差ボケが治った新しい衛星データ分析官を局長の元に挨拶に行かせなければと思った。衛星データから地図の空白地帯をセイヤーズ捜索対象地域に変えるのだ。