3日後の夕刻、ケンウッド長官とブラコフ副長官は揃ってドームゲートの外側に立っていた。月から来るシャトルを待っていたのだ。
ケンウッドが地球人類復活委員会のベルトリッチ委員長に副長官後任候補の件を尋ねると、予想が的中してラナ・ゴーン博士を推薦された。
「彼女は優秀で副長官より長官がふさわしいと思いますが?」
ケンウッドがそう意見を述べるとベルトリッチは笑った。
「それは貴方の謙遜です。彼女は確かにリーダーシップがあるし研究者として優秀ですが、貴方の下で働く方が長官職で働くよりずっと能力を発揮出来ます。人には人の適性があるのですよ。彼女は縁の下の力持ちタイプです。」
そしてゴーン博士は急遽地球に降りて来ることになったのだ。ブラコフの時間が少ないことが理由だった。
「副長官の仕事は彼女も十分知識があります。ですからドームの皆さんと彼女の相性を見て下さい。」
とベルトリッチはケンウッドに要請したのだ。「ドームの皆さん」が執政官ではなくドーマーを指していることはケンウッドにもわかった。他のドームに見られる執政官とドーマーの軋轢を委員長は懸念しているのだ。
ブラコフは後任候補が新人ではなくベテランで年上の女性だと聞いて緊張していた。ゴーン博士のことは委員会の広報ネットで見たり聞いたりして知っている。立派な経歴を持っている人がどうして彼の後任なんかに? と思いがあった。ブラコフには彼自身が凄い仕事をしていたと言う認識が欠けているのだった。だから今迄の後任候補に物足りなさを感じて落としてしまったのだ。
夕暮れの空に白く輝くシャトルが現れた時、ケンウッドは背後から声を掛けられた。
「ケンウッド・ドーム長官であらせられますか?」
馬鹿丁寧な呼び掛けにケンウッドがゆっくりと振り返ると、制服を着用した警察官と空港職員が並んで立っていた。ケンウッド自身はあまり彼等と接点がなかったので、何の用事だろうと思いながら、「そうですが?」と答えた。警察官が言った。
「ドームの学者だと名乗る人があちらでクダを巻いておられるのですが・・・身元を照会するIDをお持ちでないもので・・・」
ケンウッドとブラコフが顔を見合わせた。何のことだかわからない。ケンウッドは警察官に向き直った。
「その人は名乗っていますか?」
「ハリスとか・・・」
警察官は言い直した。
「レイモンド・ハリスと名乗っています。」
「ああ・・・」
ケンウッドは頷いた。ハリス博士が前日研究資料採取と言う届けを出して外出したことを記憶していた。まだ帰っていなかったのか?
「クダを巻いていると?」
「昼間から飲んでおられるようで、意味不明のことを色々と喋っています。」
拙い、とケンウッドは思った。ドームの秘密、取り替え子の秘密を一般の地球人に喋ったりしていないだろうな?
ケンウッドはブラコフに「ちょっと行ってくる」と言った。
「ハリス博士が困ったことになっているらしい。申し訳ないが、ゴーン博士のお出迎えは君がしてくれ。君の後任候補だ、頼んだよ。」
ブラコフの返事も待たずに彼は警察官と共に歩き出していた。
ケンウッドが地球人類復活委員会のベルトリッチ委員長に副長官後任候補の件を尋ねると、予想が的中してラナ・ゴーン博士を推薦された。
「彼女は優秀で副長官より長官がふさわしいと思いますが?」
ケンウッドがそう意見を述べるとベルトリッチは笑った。
「それは貴方の謙遜です。彼女は確かにリーダーシップがあるし研究者として優秀ですが、貴方の下で働く方が長官職で働くよりずっと能力を発揮出来ます。人には人の適性があるのですよ。彼女は縁の下の力持ちタイプです。」
そしてゴーン博士は急遽地球に降りて来ることになったのだ。ブラコフの時間が少ないことが理由だった。
「副長官の仕事は彼女も十分知識があります。ですからドームの皆さんと彼女の相性を見て下さい。」
とベルトリッチはケンウッドに要請したのだ。「ドームの皆さん」が執政官ではなくドーマーを指していることはケンウッドにもわかった。他のドームに見られる執政官とドーマーの軋轢を委員長は懸念しているのだ。
ブラコフは後任候補が新人ではなくベテランで年上の女性だと聞いて緊張していた。ゴーン博士のことは委員会の広報ネットで見たり聞いたりして知っている。立派な経歴を持っている人がどうして彼の後任なんかに? と思いがあった。ブラコフには彼自身が凄い仕事をしていたと言う認識が欠けているのだった。だから今迄の後任候補に物足りなさを感じて落としてしまったのだ。
夕暮れの空に白く輝くシャトルが現れた時、ケンウッドは背後から声を掛けられた。
「ケンウッド・ドーム長官であらせられますか?」
馬鹿丁寧な呼び掛けにケンウッドがゆっくりと振り返ると、制服を着用した警察官と空港職員が並んで立っていた。ケンウッド自身はあまり彼等と接点がなかったので、何の用事だろうと思いながら、「そうですが?」と答えた。警察官が言った。
「ドームの学者だと名乗る人があちらでクダを巻いておられるのですが・・・身元を照会するIDをお持ちでないもので・・・」
ケンウッドとブラコフが顔を見合わせた。何のことだかわからない。ケンウッドは警察官に向き直った。
「その人は名乗っていますか?」
「ハリスとか・・・」
警察官は言い直した。
「レイモンド・ハリスと名乗っています。」
「ああ・・・」
ケンウッドは頷いた。ハリス博士が前日研究資料採取と言う届けを出して外出したことを記憶していた。まだ帰っていなかったのか?
「クダを巻いていると?」
「昼間から飲んでおられるようで、意味不明のことを色々と喋っています。」
拙い、とケンウッドは思った。ドームの秘密、取り替え子の秘密を一般の地球人に喋ったりしていないだろうな?
ケンウッドはブラコフに「ちょっと行ってくる」と言った。
「ハリス博士が困ったことになっているらしい。申し訳ないが、ゴーン博士のお出迎えは君がしてくれ。君の後任候補だ、頼んだよ。」
ブラコフの返事も待たずに彼は警察官と共に歩き出していた。