2018年5月18日金曜日

泥酔者 15 - 6

 ドーマーの班長会議は通常中央研究所の食堂で開かれる。利用者が最も少なくなる午前10時頃か午後10時頃だ。班長会議が開かれている間は食堂を利用出来ないので、執政官は一般食堂へ行く。
 ケンウッド長官から事案の概略と会議開催を求められた維持班総代表のロビン・コスビー・ドーマーは質問も反対もせずに、班長達の端末に徴集指示の一斉送信を行った。
遺伝子管理局長もこの場合出席を許されるので、ハイネ局長は夜の運動時間を切り上げて食堂へ行った。
 食堂の入り口で出席者の確認をしているのは、家具作りが得意なジョアン・ターナー・ドーマーだった。若い彼はコスビーに命じられてその作業をしているのだが、ハイネ局長はその役目の意味を理解していた。だから、食堂の端に設けられた臨時ステージの上のケンウッドを認めると、長官の右横の席に座って、同じく左横に陣取っていたコスビーに囁きかけた。

「君の後継者はまだ30代ではないのか?」
「後継者?」

 ケンウッドは2人のドーマーの間に座っているので当然ながら会話を全部聞くことになる。思わず口を挟んでしまった。

「誰が?」
「ジョアン・ターナーです、長官。」

 コスビーが小声で答えた。

「出席者確認をしている大工です。」
「ああやって班長達に彼の顔を覚えさせ、彼にも班長達の名と顔を覚えさせるのです。」

 ハイネが説明した。コスビーがケンウッドを無視して局長に言った。

「まだ後継者候補と公言した訳ではないので、ここだけの話にしておいて下さい。本人にも話していませんから。 私は2、3年のうちに引退しようと考えています。」

 まだ若いのに、とケンウッドは思ったが、口出しは賢明にも控えた。コスビーは70歳を過ぎた。ドームの外に住んでいたら既に鬼籍に入る恐れがある年代に入ったのだ。それを考えたコスビーは第一線から退いて後進の育成に携わる決心をした。
 開場から10数分後に食堂はほぼ満席になった。班長と言っても各部門の最高責任者だけでなく、下部組織のリーダーもいた。コスビーは出来るだけ大勢の仲間の意見を聞きたかったのだ。何しろコロニー人が地球人にとって重要な職務をなすことの是非を問う会議だ。
 やがて、入り口にいたターナー・ドーマーが満席を告げた。