2018年5月1日火曜日

泥酔者 11 - 5

 昼休みを取りにケンウッドはブラコフとヤマザキを伴って一般食堂に出かけた。すると出産管理区の女性達と取り替え子の打ち合わせを終えたハイネ局長が女性達に囲まれて食事をしているのが見えた。ヤマザキがニヤニヤ笑って囁いた。

「相変わらず爺さん、モテるなぁ。しかもしっかり鼻の下を伸ばしている。」
「彼は真面目ですよ。」

 ハイネ崇拝者のブラコフがムッとして反論した。彼は「お誕生日ドーマー」の習慣を知らないので、ハイネがドーム内の主だった女性達と適度に男女関係を持っていることを知らない。勿論ケンウッドもヤマザキもその事実を彼に教えるつもりはなかった。
 バーでの乱闘で見事にノックアウトされたブラコフは、少年時代に大人のコロニー人をぶちのめしたと言うハイネの「伝説」にすっかり心酔してしまった。テーブルに着いてからも遺伝子管理局長をぼーっと見つめていた。そんな彼を見て、ヤマザキもケンウッドも顔を見合わせてクスクス笑っていた。すると女性達も彼に気が付いた。

「副長官、顎の調子は如何ですか?」

 シンディ・ランバート博士が笑顔で声をかけてきた。ブラコフは頰を赤くした。

「ええ・・・大したことないんです。お気遣い有り難う。」

 ハイネは彼をちらりと見ただけで、隣に座っているアイダ・サヤカに向き直った。彼が何かを囁くと、アイダと彼女の横に座っている女性が笑った。ランバートもそちらを向いて、彼等の会話に加わった。ブラコフは一瞬彼のことを笑われているのかと思ったが、そうではなかった。彼等は乱闘とは全く関係ない世間話をしているだけだった。
 ヤマザキがブラコフに声をかけた。

「一つの失敗にこだわっていると前に進めないぞ。」
「こだわってなどいませんよ。」

 ブラコフはムッとして自身の皿に向き直った。ケンウッドが彼に言った。

「視察団の接待は副長官の役目だ。しっかり頼むよ。」
「えっ?」

 ブラコフは長官を見つめた。

「僕の役目なんですか?」
「そうだよ。前回は君もなりたてだったから手伝ったが、今回はしっかり1人でやってくれ。君の副長官としての最後の大仕事だ。」
「先生も副長官の時になさったんですね?」
「私は5年しか副長官をやっていないし、その間アメリカ・ドームに視察団は来なかった。経験はない。」
「じゃ・・・前回手伝って下さった時、長官も初めてだったんですか?」
「一執政官としては数回経験している。」

 ヤマザキがはっはっと笑った。

「ドーマー達に協力してもらえば良いじゃないか。」