2018年5月6日日曜日

泥酔者 13 - 3

 昼食はさながら宴会の様だった。ヘンリー・パーシバルが在籍していた頃にいた執政官達が一般食堂に集まり、ドーマー達も時間が許す者は集まって来た。
 ポール・レイン・ドーマーはレジのところでアナトリー・ギルに呼び止められた。

「あの人が、ファンクラブ創設者のパーシバル博士かい、ポール?」
「そうだ。」

 レインは、創設期のメンバーがもう残っていないことを残念に思った。あの人達も宇宙から戻って来てくれたら、本当に愉快な集会になったことだろうに。ギルがトレイを持ってパーシバルのテーブルに近づいて行くのを横目で見ながら、彼はドーマーが集まっているテーブルに行った。彼等は昨夜夕食後にパーシバルとたっぷり語り合ったので、昼食会には参加せずに見守っているだけだった。

「パーシバル博士はまた来て下さるんでしょう、レイン・ドーマー?」
「ああ、回診に来られる。焦って博士のお仕事の邪魔はしない方が良いんだ。」

 執政官達に囲まれて高齢のドーマー達が座っているのが見えた。10数年振りの再会だ。本来なら一度退官した執政官は2度と戻って来られない。観光やビジネスでドームの外の世界と付き合うことは可能だが、ドームの中に入ることは送迎フロアの面会室止まりだ。しかしヘンリー・パーシバルは1度ばかりか2度も戻って来た。執行部本部が彼を信頼している証拠だ。地球にはこの男が必要なんだ。ポール・レイン・ドーマーは彼と友人であることを誇りに思い、年寄り達が喜んでいる理由も理解出来た。皆んな彼が好きなのだ。ケンウッド長官も心から喜んでいる。ヤマザキ博士などずっと笑いっぱなしだ。ハイネ局長は威厳を保とうと努力しているが、パーシバルに子供扱いされている。
 アナトリー・ギルは人垣の中になかなか入って行けず、離れたテーブルに着いた。それで良いんだ、とレインは思った。ドームに来て1年も経っていないのに幹部面するギルの厚かましさを苦々しく思っていた他の執政官達がパーシバルに近づかせないのだ。
 レインとクラウス・フォン・ワグナー・ドーマーの部屋兄弟であるピート・オブライアン・ドーマーが厨房から出て来て、ジョージ・マイルズ・ドーマーに何かを見せた。マイルズがそれを摘んで口に入れた。オブライアンが緊張の面持ちで元司厨長を見つめた。マイルズは目を閉じて口の中で吟味してから、目を開いてオブライアンを見た。マイルズが大きく頷くのを見て、オブライアンの顔が綻び、周囲から拍手が起きた。
 ワグナーがレインに囁いた。

「ピートのヤツ、大師匠に何か合格点をもらった様ですね。」
「うん。マイルズ司厨長は弟子には厳しい人だったそうだから、あれはピートも嬉しいだろう。」
 
 オブライアンが急いで厨房に戻って行った。その後直ぐに厨房から絵も言われぬ甘い香りが漂って来た。
 パーシバルとハイネが同時に叫んだ。

「チーズスフレだ!」

 マイルズが訂正した。

「半熟とろとろチーズスフレですよ。やっとピートが一人前に焼けるようになったんです。」