2018年5月4日金曜日

泥酔者 12 - 2

 ヘンリー・パーシバルと出資者様ご一行が消毒ゲートに姿を消すと、ポール・レイン・ドーマーは西ユーラシアからの航空機が着陸したことに気が付いた。シャトルに遠慮して少し離れた位置に降りて来たジェット機は、丁度乗客を下ろす為にウィングに横付けしたところだった。レインはそちらへ歩いて行った。ガラス越しに大勢の客が降りて来た。一般のビジネスマンに混ざってダークスーツを着込んだ若い男が見えた。きちんと出発前に髭を剃った筈だろうが、既に頰が青くなっている。髭の濃い男らしい。周囲の人間は気が付いていないが、レインには彼が遺伝子管理局の人間だと直ぐにわかった。ドーマーにはドーマーの雰囲気があるのだ。
 若い男だった。恐らくまだ20代後半だ。背が高くひょろりとした細身だ。同じように背が高いクロエル・ドーマーの様ながっしりしたガタイではなく、ローガン・ハイネ・ドーマーの様に逞しい印象もない。なんとなく病的な感じがしたが、青白いのはシベリアから来たからだろう、とレインは思った。
 男が入国審査を終えて簡易消毒を済ませてロビーに出てくると、レインは声を掛けた。

「アレクサンドル・キエフ・ドーマー?」

 男が振り返った。レインを見て、目を見開いた。美貌に驚いたのだ。レインは相手をリラックスさせようと微笑して見せた。

「遠路はるばるアメリカへようこそ! 遺伝子管理局北米南部班チーフ、ポール・レインだ。」
「キエフ・・・アレクサンドル・キエフです。」

 キエフはレインが差し出した手を恐る恐る掴んだ。カチカチに緊張した感触がレインに伝わって来た。

 わぁ、なんて綺麗な人なんだろう! どうしよう、なんて挨拶すれば良いんだ?

 多分、キエフはロシア語で考えるのだろうが、テレパシーなのでレインにはそう感じ取れた。
 レインは優しく言った。

「当面は生活習慣に慣れるのが君の仕事になると思うが、君の衛星データ分析能力に大いに期待している。言葉は大丈夫だよな?」
「ダー・・・イエス。」

 キエフは薄っすらと髭が伸びた頰を赤く染めた。レインは彼のスーツケースを見た。

「でかい荷物だな。消毒に時間がかかるかも知れん。さあ、ドームに入ろう。仲間を紹介する。」

 胸をドキドキときめかせているキエフを従えてレインはパーシバル達が入って行った消毒ゲートに向かった。