2018年5月4日金曜日

泥酔者 12 - 3

 ヘンリー・パーシバルが視察団の引率としてやって来ると言う嬉しい知らせは前日にベルトリッチ委員長から受け取っていた。それでも実際にドームの送迎フロアで彼の顔を見た時は、ケンウッドは本当に嬉しかった。思わず駆け寄り、出資者様そっちのけで彼と握手を交わした。

「先々月会ったばかりじゃないか。」

と言いつつもパーシバルも目を潤ませた。ドームに再び足を踏み入れることが出来るとは夢の様だ。御一行様から軽い咳払いが聞こえ、2人は慌てて離れた。
 ドーム長官として型通りの歓迎の挨拶をして、ブラコフ副長官を紹介した。ブラコフは間も無く退官することは一言も言及せずに挨拶すると、彼等を最初の目的である出産管理区に案内すると言った。

「荷物は?」

 誰かがまだ消毒を終えていない荷物の心配をした。ブラコフは微笑んだ。

「大丈夫です、消毒が終わり次第係がゲストハウスに搬入致します。消えたりしませんから、ご安心を。」

 御一行様から微かな笑いが生じて、彼は彼等を引き連れ、出産管理区へ向かった。
 パーシバルはブラコフに客を任せた。ドームの中は現役に案内させるのが一番だからとシャトル内で客に言い含めたのだとケンウッドに笑いながら言い訳した。ケンウッドも笑った。

「つまり、君は自由時間を上手く作った訳だ?」
「うん!」

 彼等は東の回廊を歩き始めた。互いの近況を語り合い、研究のことも話した。
すっかり昔に戻った様に錯覚する程、和やかな散歩だった。

「また回診することになった。どうもアメリカ以外のドームでは、ドーマーとコロニー人の間で軋轢があって精神的に不安定な執政官が出ているらしいよ。」
「ホームシックだろう。ここにだっているよ。」

 ケンウッドは苦笑した。

「でも、アメリカ・ドームのドーマー達は優しいからな。」