2018年2月13日火曜日

脱落者 10 - 1

 爆発があった生化学フロアはドーム維持班が綺麗に掃除して、例の実験室以外は使用可能になった。実験室だけは入り口にまだ規制線が張られている。
 ドームの中は以前の落ち着きを取り戻し、軽傷者達は元の生活に戻った。ただ、何時も見る顔・・・ブラコフ副長官とハイネ遺伝子管理局長の姿が見えないことはドーマー達も気にしていた。2人の怪我は重いのだろうか?
 ケンウッドはアパートの自室で朝の身支度をしていた。そこへアーノルド・ベックマンから電話が掛かってきた。

「朝早くにすみません。もうお目覚めと思いまして・・・」
「何かあったのか?」
「今朝の午前1時過ぎですが、薬剤管理室長ドナルド・アンガス・フェリートが逃亡を図りまして、ゲイトで確保しました。」
「逃亡を図った?」
「ゲイトを誰にも見られずに通り抜けられる筈はないのですが、焦ったようですね。」
「宇宙へ逃げるつもりだったのか?」
「日時指定なしの航宙券とコロニーのIDカードを所持していました。」
「大人しく捕まったのか?」
「私が部下の報告を受けて駆けつけた時は、麻痺光線を浴びてひっくり返っていました。ご存知のように、ゲイトの保安課員の光線銃は原則出力を『強』に設定してあります。
室長は現在観察棟で寝ています。」

 ケンウッドは溜息をついた。昨日ロッシーニと推理を語り合ったが、心のどこかでは部下がテロリストの一味だと信じたくない気持ちもあったのだ。地球人復活の為に真面目に働いていた男だった筈だが・・・。
 ケンウッドは朝食の後でドナヒュー軍曹がハイネ局長の事情聴取を行う予定だったことを思い出した。

「ベックマン課長、暫く室長をそのまま寝かせておいてくれないか? まだ事情聴取していない人々が数名残っている。マーガレット・エヴァンズの証言を是非聞きたい。室長が爆発にどんな関与をしたのか、証言をもっと集めたいのだ。」

 ベックマンは理解を示した。

「わかりました。もう暫く彼を拘束したことを伏せておきます。まだ他にも誰かいると困りますから。」

 保安課長はケンウッドをドキリとさせる言葉を残して通話を終えた。