2018年2月17日土曜日

脱落者 11 - 1

 ドーマーとして生きているクローンがいるドームに、クローンのオリジナルの親族が執政官として派遣されることがあるのか?

「ない。」

 ニコラス・ケンウッドはきっぱりと断言した。

「何の為に地球人類復活委員会が地球に遺伝子管理局を設けたのか、考えて見たまえ。コロニーから提供される受精卵子は少ない。それは親が我が子のクローンを作りたいと思わないからだ。提供してくれる親は、地球人の絶滅はあってはならないと信じている人々だ。しかし受精卵そのものを提供する気はない。クローンを作る為だから、貸してくれるだけだ。一つの卵子からクローンを最低5人作る。一卵性五つ子は大陸に均等にばら撒かれるが・・・言葉が悪かった・・・配分されるが、出会う確率がないとは言えない。同じ血縁者のクローンが出会って、子供を作らないとも限らない。それを防ぐ為に遺伝子管理をするのだ。
 地球人類復活委員会は、受精卵提供者を採用することはあっても地球に派遣はしない。また、その血縁者、親子兄弟姉妹も同様だ。」
「従兄弟姉妹は?」
「4親等以内は同様だ。それ以外でも当人が親族だと自覚すれば、対象ドーマーがいるドームには配属されない。」

 ドナヒュー軍曹とベックマン保安課長が頭の中で家系図を想像した。2人が沈黙してしまったので、ケンウッドも黙った。
 やがてドナヒューが口を開いた。

「先ほどの質問はエヴァンズがハイネ局長にしたものですが、エヴァンズはドーマーと血縁関係はないのですね?」
「その筈だ。」

と言ったが、ケンウッドは少し自信がなかった。地球人類復活委員会は、ハイネ局長の実の娘をアメリカ・ドームに配属した。もっとも、キーラ・セドウィックの場合は受精卵提供者ではないし、オリジナルでもない。ドーマーがコロニー人に産ませた子供なので、委員会としても彼女の正体を掴めなかったのだ。母親の代に選考役員だった人達は既に引退していたし、キーラの母親は決して娘の父親の身元を明かさなかった。

「エヴァンズにドーマーの縁者がいないのでしたら、彼女は誰のことを指したのでしょう?」
「彼女は意識を取り戻している。明日になれば医療区が事情聴取に耐えられるか判断を下す。それまで待っては如何かな?」

 やっとドナヒューとベックマンが執務室から出て行った。ケンウッドは溜息をついた。副長官がいない分、仕事が増えて、彼は疲れていた。防衛軍が通信遮断を解除したので月の執行部と連絡が取れる様になった。本部は副長官代理を指名するようにと言ってきた。
現役執政官から選ばなければ、本部が誰かを送り込んで来る。事態が混迷している時に、不慣れな人間を入れて欲しくないと言うのが、ケンウッドの本音だ。いっそのこと、ドーマーを副長官代理に任命したい。

「長官、そろそろお昼になさっては如何です?」

 秘書のロッシーニ・ドーマーが声を掛けてくれた。彼ももう1人の秘書ヴァンサン・ヴェルティエンが副長官秘書の手伝いに行っているので、仕事が増えている。しかも本業の内務捜査班の仕事もあるのだ。ケンウッドは秘書に返事をした。

「一緒に飯にしようか、ジャン?」