ブラコフが昼食の後で昼寝をしたいと言うので、ヤマザキは翻訳機の電源を切ることを忘れないようにと言った。
「夢を見ている間の翻訳機って、煩いだけだから、自分の夢の『音』で目が覚めてしまうぞ。」
「ご忠告有り難うございます。」
ブラコフは顔を失う重傷を負いながらも前向きだ。ヤマザキは彼の手にキスをしてやった。頰にしたかったが、ジェルで覆われているので不可能だった。それに皮膚を失った顔にキスをして細菌を移しては医者の面目丸潰れだ。「無菌」と言っても、細菌はドームの中にいる。医師はよく承知していた。
また夕食後に来る、と言って、ヤマザキは廊下に出た。3人の捜査官がまだ揉めていた。
「ハイネ局長の部屋に男の人がいるじゃないですか! 彼は医療スタッフに見えません。」
ドナヒューが抗議した。ベックマンが怒鳴った。
「あれはセルシウス・ドーマーだ! 局長の秘書だよ!!」
「秘書なら入って良いのですか?」
フォーリー・ドーマーが彼女の腕を掴んでいた。
「第1秘書は局長の右腕だ。彼は許可されている面会者だ。」
ヤマザキは大きく咳払いして彼等を振り向かせた。
「医療区内で騒いでもらっては困る。保安課に言いつけて追い出すぞ。」
ベックマン保安課長が決まり悪そうにドナヒューに視線を戻した。
「まだ許可が出ていないのに、ハイネ局長に事情聴取したいと軍曹が仰せだ。」
「駄目です。」
ヤマザキは即答した。抗議しようとするドナヒューを遮った。
「ハイネは今朝から微熱が続いている。昨日タブレットを弄って胸の筋肉に負担をかけたのだ。まだ声も出せない。明日出直して来なさい。」
フォーリーはドナヒュー越しにボスの部屋を見た。ハイネ局長はジェレミー・セルシウス相手に何やら笑っていた。あの様子では、絶対に声を出して喋っている・・・。
ボス、大人しく寝ていて下さいよ・・・
内務捜査班の副官はヤマザキのバックアップに務めた。
「局長は92歳の高齢です。絶対に体に負担をかけてはいけません。医療区長の言葉に従って下さい。それが出来ないのであれば、アメリカ・ドームからの退去を命じなければならなくなります。」
「内務捜査班を怒らせると、地球にいられなくなりますぞ。」
ベックマンもドーム側だ。ドナヒュー軍曹は体の力を抜いた。
「わかりました。では明日、必ず来ます。」
彼女はハイネの部屋に背を向けたまま、出口に向かってどんどん歩き去って行った。残された3人の男達は彼女が角を曲がって見えなくなると、次は反対側の奥の部屋を見た。
ハイネとセルシウス・ドーマーがガラスの向こうからこちらを見ていた。 ヤマザキが微笑みを浮かべて片手を挙げて見せると、ハイネも片手をわずかに持ち上げて手をヒラヒラさせた。
「腕をあげると胸の傷に響くので、あの程度しか挙げられないんだ。」
ヤマザキが解説すると、フォーリーが言った。
「私は明日の聴取には参加しません。ボスの怪我の様子は映像で十分です。」
そしてドナヒューの後を追いかけて歩き去った。まだ残っているベックマンに、ヤマザキは笑い出したいのを我慢して言った。
「昨日、ハイネがタブレットで誰かと連絡を取り合っていた。それが傷に響いて今朝の熱に繋がったのだが、どうやら相手はフォーリーだったみたいだな。」
「内務捜査班は何を掴んでいるのか、よくわかりません。」
とベックマンが愚痴った。
「夢を見ている間の翻訳機って、煩いだけだから、自分の夢の『音』で目が覚めてしまうぞ。」
「ご忠告有り難うございます。」
ブラコフは顔を失う重傷を負いながらも前向きだ。ヤマザキは彼の手にキスをしてやった。頰にしたかったが、ジェルで覆われているので不可能だった。それに皮膚を失った顔にキスをして細菌を移しては医者の面目丸潰れだ。「無菌」と言っても、細菌はドームの中にいる。医師はよく承知していた。
また夕食後に来る、と言って、ヤマザキは廊下に出た。3人の捜査官がまだ揉めていた。
「ハイネ局長の部屋に男の人がいるじゃないですか! 彼は医療スタッフに見えません。」
ドナヒューが抗議した。ベックマンが怒鳴った。
「あれはセルシウス・ドーマーだ! 局長の秘書だよ!!」
「秘書なら入って良いのですか?」
フォーリー・ドーマーが彼女の腕を掴んでいた。
「第1秘書は局長の右腕だ。彼は許可されている面会者だ。」
ヤマザキは大きく咳払いして彼等を振り向かせた。
「医療区内で騒いでもらっては困る。保安課に言いつけて追い出すぞ。」
ベックマン保安課長が決まり悪そうにドナヒューに視線を戻した。
「まだ許可が出ていないのに、ハイネ局長に事情聴取したいと軍曹が仰せだ。」
「駄目です。」
ヤマザキは即答した。抗議しようとするドナヒューを遮った。
「ハイネは今朝から微熱が続いている。昨日タブレットを弄って胸の筋肉に負担をかけたのだ。まだ声も出せない。明日出直して来なさい。」
フォーリーはドナヒュー越しにボスの部屋を見た。ハイネ局長はジェレミー・セルシウス相手に何やら笑っていた。あの様子では、絶対に声を出して喋っている・・・。
ボス、大人しく寝ていて下さいよ・・・
内務捜査班の副官はヤマザキのバックアップに務めた。
「局長は92歳の高齢です。絶対に体に負担をかけてはいけません。医療区長の言葉に従って下さい。それが出来ないのであれば、アメリカ・ドームからの退去を命じなければならなくなります。」
「内務捜査班を怒らせると、地球にいられなくなりますぞ。」
ベックマンもドーム側だ。ドナヒュー軍曹は体の力を抜いた。
「わかりました。では明日、必ず来ます。」
彼女はハイネの部屋に背を向けたまま、出口に向かってどんどん歩き去って行った。残された3人の男達は彼女が角を曲がって見えなくなると、次は反対側の奥の部屋を見た。
ハイネとセルシウス・ドーマーがガラスの向こうからこちらを見ていた。 ヤマザキが微笑みを浮かべて片手を挙げて見せると、ハイネも片手をわずかに持ち上げて手をヒラヒラさせた。
「腕をあげると胸の傷に響くので、あの程度しか挙げられないんだ。」
ヤマザキが解説すると、フォーリーが言った。
「私は明日の聴取には参加しません。ボスの怪我の様子は映像で十分です。」
そしてドナヒューの後を追いかけて歩き去った。まだ残っているベックマンに、ヤマザキは笑い出したいのを我慢して言った。
「昨日、ハイネがタブレットで誰かと連絡を取り合っていた。それが傷に響いて今朝の熱に繋がったのだが、どうやら相手はフォーリーだったみたいだな。」
「内務捜査班は何を掴んでいるのか、よくわかりません。」
とベックマンが愚痴った。