2018年2月6日火曜日

脱落者 7 - 5

 ベックマンとフォーリー・ドーマーはセシリア・ドーマーの部屋に戻った。ドナヒュー軍曹は重力が辛いのか、近くの保安課員控え室に向かった。少し休憩してから戻ると言ったが、ベックマンは尋問に時間をかけるつもりはなかった。セシリア・ドーマーもまだ長い時間の尋問に耐えられる状態ではない。
 入室すると、彼女はマスクをしたまま目を閉じていた。2人の男性がベッドに近くと、気怠そうに目蓋を開けた。保安課員がマスクを外してやった。

「私はどうなるのですか?」

 彼女の質問に、フォーリーが質問で返した。

「どうして欲しいのだ? 君はドームの中にこれ以上居たくないのだろう?」

 ベックマンは、ドーマーが犯罪を犯した場合の処罰がどんなものなのか、聞いたことがないことに気が付いた。ドーマーが犯罪を犯したことが、かつてあったのだろうか? コロニー人に逆らって観察棟に幽閉されたと言う話は聞いたことがあるが、法的な違反を犯した場合の前例を耳にしたことがない。

「追放が希望なのか? ドームの外の、大気汚染と放射線の汚れの中に追い出されたいのか?」

 フォーリーの質問に、セシリア・ドーマーは再び目を閉じた。

「それ以外に何があるのです? 宇宙へは出してもらえないでしょう?」

 彼女が口元に笑みを浮かべたので、ベックマンはギョッとした。何か悪いものが、女性ドーマーに取り憑いた様に思えたのだ。
 セシリアが言った。

「ドーマーは、法律上は地球に存在しない人間です。 私はクローン、クローンの母親から生まれた子供ですらない。クローンはドームの外に出ない限り、人間ではないのです。人間でないクローンの私が、法律上存在しないローガン・ハイネと言う人を殺害しても、殺人にならないでしょう? でも、人を殺したことは事実です。貴方方は私をドームの中に置いておけない筈です。邪悪な生き物ですからね。法律上の殺人ではないから、罰することは出来ません。私を放逐するしか、貴方方には選択肢がないのです。」

 ベックマンとフォーリーは顔を見合わせた。この女は狂っている、とベックマンは感じた。クローンも人間であると言う不動の考えで、ドームは女の子を創っているのだ。それを当のクローンが否定している。クローンが人間でないなら、クローンの女性達から生まれた現代の地球人は、何なのだ?
 フォーリー・ドーマーが初めて感情を表した、彼は苛ついたのだ。

「ローガン・ハイネも私も人間だ。法律上存在しないなどと、誰が言ったのだ? 我々ドーマーは法律上存在している。外の世界の住民登録に名前がないだけだ。ドームには、地球上の全ての住民の登録が為されている。我々ドーマーもその中に入っている。君達女性ドーマーも入っている。君も私も地球人なのだ。」

 セシリア・ドーマーが突然起き上がろうとした。しかし彼女の四肢をベッドに拘束してるベルトは頑丈で、彼女は上体を浮かせることすら出来なかった。彼女は何か叫ぼうとして、再び咳の発作に襲われた。咳き込む彼女に、ベックマンが声をかけた。

「暫くそこで休んでいなさい。そして、自分が何をやらかしたのか、じっくり考えて見ることだ。」

 2人は部屋を出た。ドナヒューが戻って来るところだった。彼女は2人の男性が出て来るのを見て立ち止まり、彼等がそばに来るのを待った。

「彼女は何か事件の真相について喋りましたか?」
「何も・・・」

 ベックマンはフォーリーを見た。彼なら上手く説明してくれるだろうと期待したが、ドーマーの捜査官は黙っていた。仕方なくベックマンは説明した。

「彼女はドーマーもクローンも法律上存在していないと信じている。存在しなければ人間ではない、だから彼女がローガン・ハイネを殺しても罪に問われない、と言う考えだ。」

 ドナヒューがポカンと口を開けて、2人を見比べた。

「一体、どこからそんな考えが出て来るのかしら?」
「さぁね・・・」

 ベックマンは思った、ドーマーを洗脳したのは誰だろう? と。