2018年2月3日土曜日

脱落者 6 - 5

 ヤマザキはブラコフの治療方法の計画を説明した。先ずは筋肉の再生を優先する。それから皮膚、神経細胞、眼球、と順番に作り上げていく。

「促進剤を用いることも出来るが、それでは後遺症や副作用を心配しなければならない。君もわかるだろう、専門家だからね。再生は出来るだけ自然な形で行いたい。
 但し、これには時間がかかる。最短でも半年は費やさなねばならない。
 知っての通り、ドーム勤務の休業は半年が限界だ。君はギリギリ間に合うか、退官を余儀なくされるか・・・。
 君に職場復帰を賭ける覚悟があるか? それとも体の回復を第1に考えるか?  僕はそれを君に尋ねたい。君の選択によって、治療方法を決めよう。何処で治療するか、決めよう。」

 ブラコフは手を動かさなかった。考え込んでいる。迷っている。ドーム勤務を諦めたくない。しかし元の体も取り戻したい。

「すぐに決めなくても良い。今は筋肉の安定をさせなければならない。10日間は安静に寝ていなければ駄目だ。わかったかい?」

 ブラコフは手を2回握った。意識はまだしっかりしている。ヤマザキはもう一つ、患者を励ます話をすることにした。

「ハイネ局長と2人の女性薬剤師は生存している。3人共に大怪我をしたが、君ほどではない。
ハイネは爆発の瞬間に君ではなく女性達を庇った。彼女達の方が君よりハイネに近かったからだ。だが、爆発の衝撃が収まると、彼はすぐに君に中和剤をかけて、心肺蘇生術を施した。君の顔面の火傷が骨迄達しなかったのは、中和剤のお陰だ。溶けかけたマスクで窒息せずに済んだのはハイネがマスクを君の顔から剥ぎ取ったからだ。ハイネは命懸けで君を救った。だから、君は生きて健康を取り戻さなければいけないよ。わかったね?」

 ブラコフは力強くヤマザキの手を2回握った。ヤマザキは空いている手で彼の手を包んだ。