ローガン・ハイネ・ドーマーは早朝に胸の奥から疼く様な痛みを感じて目覚めた。傷が悪化したのかと心配したが、朝ご飯の前に現れたヤマザキが走査して異常なしと言った。
「細胞の再生が始まったんだ。君の体が元に戻ろうとして活動しているのさ。2、3日我慢するんだね。痛みが和らげば、痒くなるだろうが、それも我慢するんだよ。」
ハイネが動いて治癒を遅らせるのを防ぐ策として、クロエル・ドーマーが局長の痛み止め薬を減らせと言った案を、ケンウッドが昨晩ヤマザキに伝え、医療区長は早速実行したのだ。勿論患者本人に教えたりはしない。
ハイネはチクチクする痛みを我慢しながらも、出されたオートミールとオムレツ、ヨーグルトをかけたカットフルーツの朝食を全部平らげた。看護師の補助を受けながら口腔内を洗浄して、薬を喉に塗ってもらったところに、ドームの俄か刑事達がやって来た。
カレン・ドナヒュー軍曹は入念にお化粧を施していた。軍服を無視すればどこかへお呼ばれに行くみたいな顔だ。ベックマンは昨晩の薬剤管理室長逮捕劇で疲れていた。無精髭を生やしているのを見て、ドーマーの医療スタッフ達が顔をしかめた。ドームの中では誰もが身ぎれいにしている。男ばかりの社会なので、ドーマー達はホルモンコントロールを受けており、互いに威嚇行為を行わないように体内的制御を為されている。だから髭が薄い。すべすべの肌が常識なので、たまにコロニー人の男性が髭を手入れしないと軽蔑の目で見られる。しかしベックマンは疲れていたので、そんな視線に気がつかなかった。ハイネが彼の髭面を睨みつけるのも気づかずに、おはようございます、と挨拶した。
「こちらは地球周回軌道防衛軍の憲兵、カレン・ドナヒュー軍曹です。今回の事件の捜査でドームに滞在されています。
軍曹、こちらが、アメリカ・ドーム遺伝子管理局の局長ローガン・ハイネ氏です。」
「よろしく、局長。」
ドナヒューが規則に従って手袋をはめた手を差し出した。ハイネは胸の痛みを堪えて腕を上げ、握手に応じてやった。これは良い傾向だ、とコロニー人達は思った。もしここでハイネが握手を拒否したらどうしよう、と皆が心配していたのだ。
ドナヒューはハイネの手をなかなか離さなかった。彼の手を眺め、話しかけた。
「この手でセシリア・ドーマーを打ち払ったのですね? 女性の顔を殴るってどんなお気持ち?」
ヤマザキはハイネが不機嫌になるのを感じた。あれは誰が見ても正当防衛であって、相手が女だろうが男だろうが、殴らなければハイネは命を失っていたのだ。そして殴ってすぐに気を失った。何も感じる暇はなかった筈だ。
ハイネはドナヒューの手から自身の手を引き出し、上掛けの下に入れた。胸に力を入れない程度の声で尋ねた。
「何をお知りになりたいのです?」
ドナヒューはベックマンを見た。ベックマンはくたびれた表情で彼女を見返した。彼は今はただ早く仕事に一区切りつけて休みたかった。
ドナヒューがハイネに向き直った。
「爆発が起きてから貴方が気を失う迄のことを教えてください。セシリア・ドーマーは何か言いましたか?」
「細胞の再生が始まったんだ。君の体が元に戻ろうとして活動しているのさ。2、3日我慢するんだね。痛みが和らげば、痒くなるだろうが、それも我慢するんだよ。」
ハイネが動いて治癒を遅らせるのを防ぐ策として、クロエル・ドーマーが局長の痛み止め薬を減らせと言った案を、ケンウッドが昨晩ヤマザキに伝え、医療区長は早速実行したのだ。勿論患者本人に教えたりはしない。
ハイネはチクチクする痛みを我慢しながらも、出されたオートミールとオムレツ、ヨーグルトをかけたカットフルーツの朝食を全部平らげた。看護師の補助を受けながら口腔内を洗浄して、薬を喉に塗ってもらったところに、ドームの俄か刑事達がやって来た。
カレン・ドナヒュー軍曹は入念にお化粧を施していた。軍服を無視すればどこかへお呼ばれに行くみたいな顔だ。ベックマンは昨晩の薬剤管理室長逮捕劇で疲れていた。無精髭を生やしているのを見て、ドーマーの医療スタッフ達が顔をしかめた。ドームの中では誰もが身ぎれいにしている。男ばかりの社会なので、ドーマー達はホルモンコントロールを受けており、互いに威嚇行為を行わないように体内的制御を為されている。だから髭が薄い。すべすべの肌が常識なので、たまにコロニー人の男性が髭を手入れしないと軽蔑の目で見られる。しかしベックマンは疲れていたので、そんな視線に気がつかなかった。ハイネが彼の髭面を睨みつけるのも気づかずに、おはようございます、と挨拶した。
「こちらは地球周回軌道防衛軍の憲兵、カレン・ドナヒュー軍曹です。今回の事件の捜査でドームに滞在されています。
軍曹、こちらが、アメリカ・ドーム遺伝子管理局の局長ローガン・ハイネ氏です。」
「よろしく、局長。」
ドナヒューが規則に従って手袋をはめた手を差し出した。ハイネは胸の痛みを堪えて腕を上げ、握手に応じてやった。これは良い傾向だ、とコロニー人達は思った。もしここでハイネが握手を拒否したらどうしよう、と皆が心配していたのだ。
ドナヒューはハイネの手をなかなか離さなかった。彼の手を眺め、話しかけた。
「この手でセシリア・ドーマーを打ち払ったのですね? 女性の顔を殴るってどんなお気持ち?」
ヤマザキはハイネが不機嫌になるのを感じた。あれは誰が見ても正当防衛であって、相手が女だろうが男だろうが、殴らなければハイネは命を失っていたのだ。そして殴ってすぐに気を失った。何も感じる暇はなかった筈だ。
ハイネはドナヒューの手から自身の手を引き出し、上掛けの下に入れた。胸に力を入れない程度の声で尋ねた。
「何をお知りになりたいのです?」
ドナヒューはベックマンを見た。ベックマンはくたびれた表情で彼女を見返した。彼は今はただ早く仕事に一区切りつけて休みたかった。
ドナヒューがハイネに向き直った。
「爆発が起きてから貴方が気を失う迄のことを教えてください。セシリア・ドーマーは何か言いましたか?」