2018年2月27日火曜日

脱落者 13 - 2

 ニコラス・ケンウッドと秘書のヴァンサン・ヴェルティエンが月に到着すると、見知った顔の執行部の事務員とボディガードが出迎えた。ケンウッドは物々しい宇宙港の警備を見た。

「まだ厳戒態勢ですか?」
「今日は追悼式に出席するセレブが多いのです。『青い手』でなくとも襲ってくる可能性がありますから。」

 ケンウッドは追悼式に出るのは地球人類復活委員会のメンバーだけと思い込んでいた自身の甘さに気が付いた。委員会に出資している多くの企業からも使者が来ているのだ。経営者や重役が来ている企業もある。彼等の多くは地球を愛すと言うより、地球の資源に関心があるのだ。ただ「青い手」の様に住人を絶滅させて資源を得る様な卑怯なことは考えていない、まともな人々だ。世間では売名行為と揶揄する者もいるだろうが、出資者達は委員会にとっては重要な人々だ。
 会場は月でも最大級のホールだった。宇宙連邦の会議なども開かれる場所で、警備は万全だ。ケンウッドは直属の部下を失った立場なので、遺族席に近い席に案内された。アフリカ・ドームからは重傷を負った副長官が車椅子で参加していた。長官を失ったので、彼が次の長官になるのだろうか、とケンウッドは挨拶をしながら考えた。アフリカ・ドームの副長官はまだ体調が思わしくないらしく、看護師が付き添っている。長官職をこなすのはまだ当分無理だろう。
 追悼式は静かなクラシック音楽が流れる中で厳かに行われた。ハナオカ委員長が死者達の研究への貢献を讃え、感謝し、決して暴力に屈せずに一日も早く地球人を復活させることを誓った。宇宙連邦軍は既にテロリストを制圧した筈だったが、それに関する話は出なかった。犠牲者達の親しかった友人が数名代表で弔辞を読み上げ、ケンウッドも被害を受けたドームの代表として弔辞と出席者へ感謝の辞を述べた。
 式典が終わると、VIPの客達は遺族席に順番に挨拶して退出して行った。ケンウッドはハン・ジュアン博士の遺族と対面した。まだ若く見える両親だったが、息子の突然の死去に打ちのめされていた。ケンウッドは慰めの言葉を贈ったが、ただの気休めでしかないと自身で思った。
 研究員のチャーリー・ドゥーカスの遺族は彼の妻子だった。親は遠方に住んでいて追悼式には間に合わないので来なかったのだ。まだ若い細君と幼い子供を見て、ケンウッドの胸に悔しさが込み上げて来た。チャーリー・ドゥーカスとはそんなに親しくなかったが、故人の無念さは理解出来る。こんなチャーミングな妻と可愛らしい我が子を置いてこの世を去らなければならなかった彼の悔しさを。
 研究員リック・カールソンの遺族はスタン・カールソンとエリザベート・ウェスト夫妻だった。夫婦別姓なだけで、2人は結婚以来50年間ずっと同居していた。彼等にはリック以外にも子供がいて、追悼式にはリックの姉のセシリアとモーラの双子も出席していた。双子はリックに似ていたが、セシリア・ドーマーとは全く似ていなかった。スタン・カールソンが、リックには弟が2人いるが、1人は軍人で式典には来られなかったと言った。末っ子の息子は兄の死を悲しみ、式典に出るのを嫌がったと言う。

「家族だけの葬儀で十分だと申しまして・・・」

 カールソンはケンウッドが地球を発つ前に頼んでおいた家族の集合写真のコピーを持って来てくれていた。

「リックが最後に実家に帰省した時に撮影したものです。偶々次男も休暇で帰っていましたので、娘達の家族も一緒に総勢20人ばかりの画像になりますが。」

 それでも一人一人の顔は鮮明に見ることが出来る。拡大すればもっとよくわかるだろう。

「有り難うございます。お辛い時に厚かましいお願いを聞き届け下さって感謝します。」
「この画像が事件の捜査の助けになると仰いましたが?」
「ええ・・・リックの友人である地球人の未来がかかっています。詳細は語れませんが・・・」
「構いません。それはコピーです。捜査に使われた後はご自由に処分なさって下さい。」