ケンウッドは夕食を摂りに一般食堂に行った。その日は日本食が中心で、あっさりした物が食べたかったケンウッドには有り難かった。ドームで食べられる刺身は一旦冷凍して殺菌処理された魚で、本当の刺身ではないのだ、とヤマザキがずっと以前に言っていた。もっともヤマザキだってコロニー人なのだから、「本当の刺身」を食べたのは地球に降りてきて祖先が暮らしていた島国に旅行に行った時が最初で最後なのだ。
ケンウッドが赤身の刺身と野菜の煮物を取ってテーブルに着いて間も無く、クロエル・ドーマーが現れた。この若者は仲間から人気があるのに、何故か食事時は1人で居ることが多い。但し、孤独を好んでいる訳でもなく、話し相手になってくれそうな人を見つけてテーブルに押しかけるのだ。
もしかして、北米北部班の同僚と馬が合わないのか?
クロエルは南米生まれ南米育ちの異色のドーマーだ。母語はスペイン語だし、高温多湿に体が慣れている。音楽もダンスも中南米の陽気な物を好む。北米北部班だって陽気な男達が多いのだが、ちょっと水が違うのかも知れない。
クロエルは物怖じしない。お偉いさんでも好きな人には平気で話しかける。ケンウッドは彼と目が合ってしまった。しまった、と思うが目を逸らすのも失礼なので、微笑んで見せると、案の定クロエルは喜んでテーブルにやって来た。
「こんばんは! 同席よろしいっすかぁ?」
「どうぞ、歓迎するよ。」
クロエルは好きな刺身をかき集めてご飯の上に載っけていた。海鮮丼を作ったのだ。それに肉じゃがやらかぼちゃのそぼろ煮やら、甘い味の野菜の惣菜を数種類トレイに置いていた。
「豪勢だね、クロエル。」
「僕ちゃん体が大きいんで、こんだけ食べなきゃ保たないんす。」
器用に箸を使って食べ始めた。ケンウッドも箸を使えるが豆腐は苦労する。
「クロエル、君は南米班に戻りたいのかい?」
それとなく尋ねてみた。若者が顔を上げた。
「帰りたそうに見えるんすか?」
「君が北米の仲間と一緒にいるのを余り見ないのでね・・・」
「うーん・・・」
クロエルは大きなじゃがいもを口に入れて、もぐもぐと食べて飲み込んでから、長官に言った。
「仲間がどうって言うんじゃないっす。僕ちゃん、暑い所の方が性に合ってるんす。」
「寒いのは嫌いか?」
「レインも嫌いだって言ってます。」
「局員シャッフルは、気に入らないか・・・」
「今のメンバーが一緒に南米に行ってくれたら、僕ちゃん何も文句ありませんけどぉ。」
「それじゃ北米に誰もいなくなるじゃないか。」
「だからね、それが僕ちゃんが1人でいる理由なんす。同僚はみんなスキーやスケートの話ばっかするんだもん・・・。」
要するに、北国のウィンタースポーツの話題についていけないのだ。運動神経は抜群だから練習すれば直ぐに上手くなるだろう。しかしクロエルは寒い氷や雪の上で遊びたくないのだ。
ケンウッドは優しく宥めた。
「君は幹部候補生の試験にパスしたから、春分祭の後で昇格があるだろう。どのチームのリーダーになるか、チーフ会議で決められる。希望の暖かい土地に行けるように、品行方正でいなさい。」
「はい、肝に銘じておきます。」
素直に答えてから、クロエルは声を潜めて尋ねた。
「局長はどんなご様子ですか?」
ケンウッドはどう答えて良いものか困った。
「大人しく寝ているように見えて、仕事をしたがるのでヤマザキが困っている。腕を動かすと胸の傷に響くのだ。本人は痛み止めのお陰で動いても気にならないらしいが・・・」
「痛み止めを減らしては如何です?」
と残酷なことを言うクロエル。
「そしたら局長も大人しくしてますよ。早く戻って来て欲しいっす。」
ケンウッドが赤身の刺身と野菜の煮物を取ってテーブルに着いて間も無く、クロエル・ドーマーが現れた。この若者は仲間から人気があるのに、何故か食事時は1人で居ることが多い。但し、孤独を好んでいる訳でもなく、話し相手になってくれそうな人を見つけてテーブルに押しかけるのだ。
もしかして、北米北部班の同僚と馬が合わないのか?
クロエルは南米生まれ南米育ちの異色のドーマーだ。母語はスペイン語だし、高温多湿に体が慣れている。音楽もダンスも中南米の陽気な物を好む。北米北部班だって陽気な男達が多いのだが、ちょっと水が違うのかも知れない。
クロエルは物怖じしない。お偉いさんでも好きな人には平気で話しかける。ケンウッドは彼と目が合ってしまった。しまった、と思うが目を逸らすのも失礼なので、微笑んで見せると、案の定クロエルは喜んでテーブルにやって来た。
「こんばんは! 同席よろしいっすかぁ?」
「どうぞ、歓迎するよ。」
クロエルは好きな刺身をかき集めてご飯の上に載っけていた。海鮮丼を作ったのだ。それに肉じゃがやらかぼちゃのそぼろ煮やら、甘い味の野菜の惣菜を数種類トレイに置いていた。
「豪勢だね、クロエル。」
「僕ちゃん体が大きいんで、こんだけ食べなきゃ保たないんす。」
器用に箸を使って食べ始めた。ケンウッドも箸を使えるが豆腐は苦労する。
「クロエル、君は南米班に戻りたいのかい?」
それとなく尋ねてみた。若者が顔を上げた。
「帰りたそうに見えるんすか?」
「君が北米の仲間と一緒にいるのを余り見ないのでね・・・」
「うーん・・・」
クロエルは大きなじゃがいもを口に入れて、もぐもぐと食べて飲み込んでから、長官に言った。
「仲間がどうって言うんじゃないっす。僕ちゃん、暑い所の方が性に合ってるんす。」
「寒いのは嫌いか?」
「レインも嫌いだって言ってます。」
「局員シャッフルは、気に入らないか・・・」
「今のメンバーが一緒に南米に行ってくれたら、僕ちゃん何も文句ありませんけどぉ。」
「それじゃ北米に誰もいなくなるじゃないか。」
「だからね、それが僕ちゃんが1人でいる理由なんす。同僚はみんなスキーやスケートの話ばっかするんだもん・・・。」
要するに、北国のウィンタースポーツの話題についていけないのだ。運動神経は抜群だから練習すれば直ぐに上手くなるだろう。しかしクロエルは寒い氷や雪の上で遊びたくないのだ。
ケンウッドは優しく宥めた。
「君は幹部候補生の試験にパスしたから、春分祭の後で昇格があるだろう。どのチームのリーダーになるか、チーフ会議で決められる。希望の暖かい土地に行けるように、品行方正でいなさい。」
「はい、肝に銘じておきます。」
素直に答えてから、クロエルは声を潜めて尋ねた。
「局長はどんなご様子ですか?」
ケンウッドはどう答えて良いものか困った。
「大人しく寝ているように見えて、仕事をしたがるのでヤマザキが困っている。腕を動かすと胸の傷に響くのだ。本人は痛み止めのお陰で動いても気にならないらしいが・・・」
「痛み止めを減らしては如何です?」
と残酷なことを言うクロエル。
「そしたら局長も大人しくしてますよ。早く戻って来て欲しいっす。」