ヤマザキ・ケンタロウはベックマン保安課長からきちんと整理した報告書をメールで受け取った。不愉快な内容だったが、彼の予想にほぼ合致していたので、納得もいった。彼は薬剤管理室長に疑いを抱いた時、マーガレット・エヴァンズの治療に用いる薬剤成分に細心の注意を払った。そしてじわりじわりと筋力を弛緩させ患者を死に至らしめる成分を発見していたのだ。フェリート室長は薬剤師らしい手段で部下の暗殺を図ったと考えて良かろう。
エヴァンズは予想より遅かったが、その朝未明に意識を取り戻した。看護師の呼びかけに反応し、目を開いて医療スタッフを見た。おはようと言う呼びかけに、微かに微笑して応えた。ヤマザキは看護師に彼女の覚醒をもう暫く秘密にするようにと言いつけた。
「まだ事情聴取に耐えられる状態じゃないからね。」
「わかりました。先生と私以外は病室に入れないよう保安課員に言っておきます。」
ガブリエル・ブラコフは目覚めていた。エヴァンズが覚醒したと聞かせると、彼は喜んでくれた。
「彼女は何か爆発の詳細を知っていると思いますか、先生?」
「期待しているが、まだ話せる状態じゃないからね。」
「脳波翻訳機でも駄目ですか?」
「彼女は君より重体だったんだ。脳内出血を起こしていてね。」
それがハイネが庇った時に床に頭を打ち付けたせいだとはヤマザキは言わなかった。エヴァンズ自身が話題にする迄は黙っていようと思った。ハイネは彼女を助けようとしただけだ。彼も彼女があの行動で負傷したとは想像すらしていない。
ブラコフは看護師がどこからか見つけてきた手の感覚だけで遊ぶゲームで暇つぶしをしていた。ベッドを斜めに上げてもらい、口からの食事はまだ無理だが、舌が無事だったので、味見だけはさせてもらえるのだ。チューブで喉から注ぎ込まれる食事が少しだけ楽しめる。
「歯と顎は無事だから、頬の再生が終われば普通の食事が楽しめるよ。」
ヤマザキの言葉に彼は「楽しみです」と応じた。その態度に医師は感心した。
「君は大人だなぁ。普通の人なら、君のような怪我をしたら絶望して未来のことは考えないだろうに。」
「僕だって何時も冷静でいる訳ではありません。」
気のせいか翻訳機の音声が笑っているようにヤマザキの耳に聞こえた。
「昨日の夜、どうしてこんな目に遭わなければならないのだろうと、悲しくなりました。それで泣いたのですが、翻訳機の電源を入れたままだったので、物凄い雑音がして、自分でびっくりしたんです。そして、取り乱すってことは、まともな思考じゃないって悟ったのです。」
「感情を抑制しても良いことはないぞ。泣きたい時は泣きなさい。」
「電源を切って・・・ね?」
軽快なリズムの様な雑音がした。ブラコフが楽しんでいるのだ。
「今の僕の心配は、ケンウッド先生のお仕事の手伝いが出来ないことです。副長官を欠いたドーム行政は大変でしょう? 長官が過労で倒れないか心配なのです。」
「それは僕がしっかり見張っている。」
「それが心配なのです。ケンウッド先生が何時も仰ってました。『ヤマザキ先生は自分のことを考えないで他人の心配ばかりしているから、体を壊さないか心配だ』ってね。」
「それは一本取られたな・・・」
エヴァンズは予想より遅かったが、その朝未明に意識を取り戻した。看護師の呼びかけに反応し、目を開いて医療スタッフを見た。おはようと言う呼びかけに、微かに微笑して応えた。ヤマザキは看護師に彼女の覚醒をもう暫く秘密にするようにと言いつけた。
「まだ事情聴取に耐えられる状態じゃないからね。」
「わかりました。先生と私以外は病室に入れないよう保安課員に言っておきます。」
ガブリエル・ブラコフは目覚めていた。エヴァンズが覚醒したと聞かせると、彼は喜んでくれた。
「彼女は何か爆発の詳細を知っていると思いますか、先生?」
「期待しているが、まだ話せる状態じゃないからね。」
「脳波翻訳機でも駄目ですか?」
「彼女は君より重体だったんだ。脳内出血を起こしていてね。」
それがハイネが庇った時に床に頭を打ち付けたせいだとはヤマザキは言わなかった。エヴァンズ自身が話題にする迄は黙っていようと思った。ハイネは彼女を助けようとしただけだ。彼も彼女があの行動で負傷したとは想像すらしていない。
ブラコフは看護師がどこからか見つけてきた手の感覚だけで遊ぶゲームで暇つぶしをしていた。ベッドを斜めに上げてもらい、口からの食事はまだ無理だが、舌が無事だったので、味見だけはさせてもらえるのだ。チューブで喉から注ぎ込まれる食事が少しだけ楽しめる。
「歯と顎は無事だから、頬の再生が終われば普通の食事が楽しめるよ。」
ヤマザキの言葉に彼は「楽しみです」と応じた。その態度に医師は感心した。
「君は大人だなぁ。普通の人なら、君のような怪我をしたら絶望して未来のことは考えないだろうに。」
「僕だって何時も冷静でいる訳ではありません。」
気のせいか翻訳機の音声が笑っているようにヤマザキの耳に聞こえた。
「昨日の夜、どうしてこんな目に遭わなければならないのだろうと、悲しくなりました。それで泣いたのですが、翻訳機の電源を入れたままだったので、物凄い雑音がして、自分でびっくりしたんです。そして、取り乱すってことは、まともな思考じゃないって悟ったのです。」
「感情を抑制しても良いことはないぞ。泣きたい時は泣きなさい。」
「電源を切って・・・ね?」
軽快なリズムの様な雑音がした。ブラコフが楽しんでいるのだ。
「今の僕の心配は、ケンウッド先生のお仕事の手伝いが出来ないことです。副長官を欠いたドーム行政は大変でしょう? 長官が過労で倒れないか心配なのです。」
「それは僕がしっかり見張っている。」
「それが心配なのです。ケンウッド先生が何時も仰ってました。『ヤマザキ先生は自分のことを考えないで他人の心配ばかりしているから、体を壊さないか心配だ』ってね。」
「それは一本取られたな・・・」